「お待たせしました」
コトリ。とおかれたティーカップ。注文したコーヒーは湯気をたてていてとても美味しそう。
「あれ。なんでふたつ?」
「休憩もらったのでなまえと一緒に飲もうと思って」
「そ、そう・・」
「嬉しくない?」
「そんなことない!嬉しいよ!」
「それは良かった」
にこりと微笑む透にきゅん、ってなる。相変わらずかっこいいなあ。わたしにはもったいないぐらい。毎日のように通う、ここ、ポアロで働き出した彼に一目惚れ。思い切って告白したらオッケーをもらえて正直驚いた。そんなこんなで今に至るわけだが。頼んだこのコーヒー。実は飲めなかったりする。
「いただきます」
震える唇をカップへつける。一口飲みこめば、苦い。苦味が後味として残ってるなんとも気持ち悪い感覚に顔を歪ませた。そんなわたしを不思議がる透。悟られないよう笑顔を向けた。だが、
「・・え。もしかして飲めない、んですか?」
「・・・・・・」
ばれちゃった。驚いた表情で見つめてくる。それもそうか。飲めないのになんで注文するのか、って話よね。だって大人なあなたにはそのほうが相応しいかなって思っちゃったのよ。見た目も幼いしせめて中身ぐらいは大人になろうって思った。でも結果がこれとは。なんて情けない。
「ちょっと待っててください」
透はキッチンの方へ消えていった。暫くして戻ってきた透の手には新しくティーカップがひとつ。
「いつものどうぞ」
「なんで透が知って・・!?」
「梓さんから聞いてました。僕がいない日はコーヒーじゃなくこれを注文すること」
「知ってたならなんで・・」
「僕の前で必死に大人ぶろうとしているなまえが可愛かったんです」
「・・!ばか!ん、っ」
透の唇が触れる。身体を硬直させるわたし。目をあけたままだったから透の顔が間近で長い睫毛がくすぐったかった。
「どうして無理するんです?」
「こんな甘党・・子供っぽくて笑っちゃうでしょ・・」
そんなこと、そう言えば睨まれてしまった。彼女にとってはそれほど重要なことらしい。・・まったく。
「あなたはそのままでいいんですよ」
「・・きっと飲めるようになるから」
わたしが口を尖らせてそう言えば透は笑った。
それがまたすごく悔しくて。大人になるにはまだまだ先らしい。だって、あの甘いキスがわすれられそうにないから。
10万打企画/花様