「つっっっまんない!ですわ!」
「こらなまえ言葉が悪いわよ。それと変」
「だってアナスタシア様!兄様ったら伊佐那海とばっかり!」
わあ、とアナスタシアに抱きつく。引きつった表情を見せながらなまえを自分から引き離した。
「ようするに寂しいのねエ。才蔵が離れてっちゃうのが。いいじゃない。なまえも兄離れできるし才蔵にも春がくるし。」
「よくありませんわ!あの女だけは許しません!兄様にはもっと相応しい方がお似合いですのよ」
アナスタシアはやれやれといった表情で笑った。伊佐那海もだがなまえも十分めんどくさいとアナスタシアは思っている。
(こんなのに囲まれて才蔵も大変ねえ・・)
「まああんたは才蔵の妹だ、ということは忘れないことね」
「・・・、分かってますわ」
分かってる。いつかは離れなきゃいけない。だけどそれまでは自分の傍にいてほしい。なんと我が侭。自分勝手。ひっつかれるのを好まない才蔵にとっては自分は鬱陶しがられてるかもしれない。だけど優しいから。そっけなくされても最後には優しい。だから離れられないのかもしれない。
「なまえも好きな人ができれば変わるわよ」
「私に?」
「そう。たとえば・・佐助は?」
アナスタシアの言葉に目を見開く。数回瞬きを繰り返した後眉間に皺を寄せた。
「あからさまになんて顔してんのよ」
「・・アナスタシア様なにを仰ってますの。甲賀者は論外です!」
「また偏見を。アンタのはっきりと言うそういうとこ嫌いじゃないけどいつか損するわよ?」
なまえは口を尖らせ、アナスタシアとは反対に顔を背けた。
「兄様に相応しい素敵な方が見つかるまでは離れません」
そう、この気持ちは誰にも分からない。アナスタシアにも。これは自分だけが知っていればいいだけ。
「六郎様」
六郎に幸村様から呼ばれていると知らされ、その場に向かう。その時にはなんだか嫌な予感がした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「お呼びになりまして?」
「これを佐助に渡してほしい」
「なんで私がそのようなことをー・・!」
「お前らはいがみ合いすぎる。見ていられんほどにな」
だからって。不機嫌そうな表情をしていたのか幸村様が豪快に笑う。渋々それを受け取って佐助の元へと向かう。佐助はすぐに見つかった。いつものように森にいて雨春たちと戯れていた。こうして見てみれば普通の少年となんら変わらないというのに。さっさと渡してしまおうと一歩、近づいた。
「何者!?」
殺気を放ち、振り向いた佐助になまえの肩がビクリと揺れる。刃先は的確に首を捉えていた。ぷつり、と刃が皮膚にくいこむ。あまりに俊敏な動きになまえは反応することができずにいた。血が流れ出てなまえが漏らした恐怖の声に佐助は我にかえる。刃を向けた相手が知っている人物だと分かれば佐助は刀をどけて身体を一歩後ろへと退けた。
「折角真田さまからの届け物を持ってきて差し上げたというのにあんまりではなくて?」
首から流れ出た血を拭いながら、震える声でなんとか言葉を紡ぐ。
「そこ、置いておけ。」
佐助はそこまで素っ気無く言い放ちなまえから視線をずらした。自分はかなり嫌われているらしい。まあ、自分も嫌いなのだからお互い様、というべきだろうか。だけど。
「・・幾ら忍で、伊賀のわたくしが嫌いと言えどいきなり刃物を首にあてるのはあるまじき行為ですわ。」
「伊賀者と馴れ合う。否。」
「大分兄様の態度とは違うのね。」
「才蔵、忍。故に分かり合うことがある。なまえ違う」
女だから忍にはなれない。皆そう言う。ただ兄様だけは言わなかった。悔しい。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「なまえどこへ行って・・・ってお前その首どうした!?」
「兄様・・・あ。なんでもありません」
「なんでもない、ってお前なあ・・・」
「兄様わたくし少々疲れましたので先にお休みになりますね」
「・・・ああ」
「ではおやすみなさいませ」
(ありゃーなんかあったな)
襖が閉まると同時、お風呂あがりの伊佐那海が姿を現した。
「あれー?なまえ寝ちゃったの?折角枕投げしようと思ったのにぃ」
「寝ろ」
襖の向こうでじゃれあう伊佐那海の声に止めに行きたい気持ちだったがとてもじゃないけど相手にする気にはならなかった。久しぶりに忍にはなれないと現実を突きつけられたからだろうか。何を言われても平気だったのに。甲賀者に言われたくらいで。電気はつけたまま布団を深くかぶって潜り込んだ。
「ん・・・」
人の気配がする。うっすらと瞼を押し上げてぼやけた視界に映ったのはー。
「〜〜〜っ!?」
跨ってる佐助に脳内がパニックになる。
「あっあなった!何をしてっ!?」
夜這い!?なんて言葉がもれれば佐助は顔を赤らめた。
「否!我、心配!」
「・・・?心配、って・・・?」
「首」
佐助が自分の首を指示しそれになまえは小さくああ、と呟いた。
「大丈夫ですわ、これぐらい。あなたがつけた傷ですけど」
もう一度謝ってくる。別に謝ってほしいわけではない。どんな言葉をかけてほしいのか分からないけど、欲しいのはそんな言葉ではない。なら、なにがほしい?
「よ、用がすんだのならさっさと出ていってくださいまし!仮にも女子の寝室ですのよ!?」
それでもどこうとしない。
「・・・っ大きな声だしますわ、よ」
自分の唇に柔らかい感触。生々しい人の唇の。
「!?」
「なまえ」
「っ」
耳元で響く佐助の声にぞくっとした。そのままつけた傷にちゅっと触れる。舌で舐めあげた。
「んっ、ふうっ・・・」
首から鎖骨、胸の膨らみへ。なまえは制止をかけた。
「ちょっなにして」
「黙って」
「・・・!」
嫌ってるくせに、どうして、こんなこと。胸を弄っていた手が下腹部へと伸びる。下着の隙間から手をいれ、少し濡れてきた秘部の入り口を撫でた。電流のような刺激がはしる。ゆるゆると動かされるもどかしい指の動きに甘い吐息がもれはじめた。十分潤うとまずは一本、それはすんなりと受け入れる。だんだんと増やしていくが二本が限界のようだ。奥へのみこませる。奥に挿れられるたびにさっきまでとは違う刺激がはしりおかしくなってしまいそう。
「あっ、んん・・・!」
一瞬震え、ビクビクと痙攣する。涙が滲む視界の中
額に優しい口づけが落とされた、気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「朝・・・?」
気を失ってしまったようだった。何事もなかったかのようにいつもの朝。布団はちゃんとかかってるし、衣服はきちんとしていた。昨夜のことは夢?それにしてはやけにリアル。感触もはっきりと残っている。
「なまえ?起きたか?」
「・・・!?」
才蔵の声にびくっと跳ねる。慌てて返事を返した。
「あ、兄様!?おはようございます!」
「少し、いいか?」
「えっ、あっ、今・・・ですか!?少しだけ、待ってくださいまし!今はちょっと・・・」
「じゃあ後でいい」
こんな顔、兄様には見せられない。自分で見てないからどんな顔しているか分からないけど、きっと変な顔をしている。
「なんなんですの、この気持ちは・・・」
着替えて外にでると兄様の姿は見当たらなくて、だけどその代わりに伊佐那海が嬉しそうに駆け寄ってきた。なんでこんな時に限ってこの女が来るんだろう。
「なまえ聞いて聞いてっ佐助が森に連れてってくれるって!よければなまえも一緒に行かない!?」
「・・・甲賀者の話はしないでくださいまし、不愉快極まりないですわ!」
「どうして怒ってるのなまえ?」
なまえが怒って機嫌を悪くしている理由を誰も知る由もない。
(ああ、もうっ)
あんなはしたない夢を見たからだ。じゃなきゃこんなにイライラする理由が見つからない。ただの夢。あれはただの夢。ただの・・・。
「あっ佐助!」
伊佐那海の声に顔をあげれば佐助の視線と交わる。そうすればなまえの顔がぶわりと真っ赤になった。本当に嫌になる。これでは恋する乙女のようではないか。
(私には兄様だけ、兄様・・・だけ)
この気持ちが何なのか、気がつくのはもう少し先のお話。