100000 | ナノ






私の旦那さまー、ジャーファルさんはいつも帰りが遅い。記念日やら約束した日やら大事な日はちゃんと帰ってきてくれるのだけれど。じつはほんの少し寂しかったりする。仕事熱心な彼のことは尊敬するしすごいなあ、って思う。同僚のひとや後輩の子とも一度会ったけど皆いい人達みたいだし。それはよしとしよう。問題はその後。残業して帰るときになるといつも社長に飲みに誘われるらしい。やっぱり目上の人の誘いは断りにくいらしいとのことだが、一回くらい断ってもいいんじゃないか。椅子に座り頬杖をついて時計に目をやる。もう日付はかわっていて、冷めてラップにかかっている夕飯たちを見ながらため息をひとつはいた。、とそのときだ。玄関のインターホンがなる。伏せていた顔をあげて、バタバタと忙しなくかけていった。ドアをあけてジャーファルさん、と口にしようとしたとき。そこにいたのは社長のシンドバッドさんだった。


「やあ」
「ー・・あ、」


挨拶をされて少し、いやかなり戸惑う。なんでシンドバッドさんが?ほんのり頬が赤いことから酔っているみたいだ。ずらした視線の先には待っていたジャーファルさん。酔いつぶれ、シンドバッドさんに連れられてきたみたいだった。


「ジャーファルさん・・っ」
「すまない。飲みすぎたみたいだ。ジャーファルの部屋は?」
「あ、えと、こっちです」


運んでくれるらしくシンドバッドさんを部屋へと促した。寝かせつけ、リビングで待っているシンドバッドさんにお茶をだす。


「ありがとうございました」
「いや、俺の方こそすまない。あまりにジャーファルの酔った反応が面白くてつい調子にのってしまった」
「ジャーファルさんの反応?」
「あいつ泣き上戸はいるから気をつけた方がいいぞ」
「え、そうなんですか?」


意外。ジャーファルさんは家ではお酒や煙草はやらないひとだから。瞬きを繰り返す私にシンドバッドさんは笑った。


「なんですか?」
「いや、お嬢さんは可憐で愛らしいな、と。ジャーファルが惚れるのが分かったよ」
「やだ!シンドバッドさんったら!・・それに私お嬢さんって年でもありませんよ!?」


いきなりのシンドバッドさんの発言に顔を真っ赤にさせてしまう。ぶんぶんと首を横にふって否定すればまた笑われてしまった。


「シンドバッドさん?」


シンドバッドさんの指が私の髪に触れ、掬った髪はさらりと揺れる。


「ジャーファルが羨ましいな」
「・・っ!」


どうしてしまったのか。あまりにもシンドバッドさんの瞳が真剣で反らせない。私はかちかちに固まってしまって。そんな私に気づいたのかシンドバッドさんの手が離れ、立ち上がった。


「やめておこう。ジャーファルに殺されそうだ。」
「え?、!ジャーファルさんっ」


振り向いた先にはいつのまにか目を覚ましたジャーファルさんがいた。ものすごく機嫌が悪い表情をしている。静かにこっちへ近づいてくるジャーファルさんは少し怖くて。


「あ、あの・・ひゃっ!?ちょ、ジャーファルさん!?」


ちゅ、と頬にジャーファルさんの唇があたる。そのまま唇へ。柔らかい感触は次第にぬるり、と生暖かい感触へと変わった。舌だ。ジャーファルさんの舌。思わず私は甘い声を発してしまう。

「・・や、だあ・・ジャーファルさ、」


シンドバッドさんに見られてる。恥ずかしい。頭の隅に小さく扉が閉まる音が響く。シンドバッドさんが気をきかせてでていった音だ。だけど、今の私にはそんなこと考えている余裕なんかなく。艶っぽいジャーファルさんの瞳に見つめられて熱があがるのが分かる。きゅう、と胸がなってジャーファルさんに抱きしめられて体温が心地よい。


「ーー・・・はあっ、・・全く、気安く触らせて」
「え・・?」


さっきシンドバッドさんに触られた部分の髪をジャーファルさんが切なそうな表情で唇をおとす。


「・・あなたは私のものなんですよ。自覚してる、ん、です・・か・・」
「きゃ!?」


言葉が途切れ、ずり落ちてきたジャーファルさんの全体重がかかる。重たい。重たすぎますジャーファルさん。なんとか床に横たわらせようとすればすぐにすーすー、と規則正しい寝息が聞こえてきて私はため息を吐く。この人はどこまで自分勝手なのか。
ジャーファルさんの寝顔を見ながら思う。結局、私はそんなジャーファルさんも含めて彼の全部が愛しくて大好きなのだと。


「・・もう、・・今日もお疲れ様でした。ジャーファルさん」


きっとジャーファルさんは明日まで起きないと思う。私は微笑むと風邪を引かないよう掛け布団をとりに寝室へと足を運ばせた。