ソレイユ | ナノ
火神くんと仲良くなって数日。友達がいないわたしにとってはとても嬉しいことでした。兄が黒子テツヤだと知ったときの火神くんの驚いた顔は今でも忘れられません。


「お前もバスケやんの?」
「え!?」
「兄貴がやってんなら影響受けるもんかと思ってたけど」
「わ、わたしは別に・・」
「ふーん」


火神くんの視線が痛い。突き刺すように見てくる。・・これは見透かされているのかもしれない。


「・・ほんとはバスケ好きだからマネージャに、って思ってたんだけど怖くて逃げてきちゃった」


えへへ、とぎこちない笑顔で笑えば火神くんにチ、と舌打ちされた。これは地味に傷つく。沈黙すれば火神くんが口をひらいた。


「黒子は存在感ねえし、バスケは超がつくほどド下手、変なヤツだけど」
「言いすぎです」
「・・でもアイツは好きなものをはっきり好きって言ったぜ」
「・・わたしはテツヤとは違うんです」
「あー、めんどくせえ!!なんでこう兄妹そろって・・!変人に関わった俺も俺だけど」


いきなりキレて叫びだす。


「来い!」
「え?どこへ」
「バスケ部だ!マネージャー希望なんだろ!」
「でも、わたしなんか・・っ」


どこかでブチ、って音が聞こえた気がした。


「”わたしなんか”言う前に行動しろや!お前だって変えたいんだろ世界!!」
「火神く、・・っきゃあああ!」


ぐんっと勢いよく自分の身体が宙に浮いた。目線が高くなって今まで見たことない景色。目線が変わるだけでここまで違うのか。


「こ、こわいこわいこわい・・!」


149センチからいきなり190センチ台。これは怖すぎる。ぎゅうう、と火神くんの首根っこにしがみついた。


「テメッ動くな!あばれんじゃねえ!落とすぞ!!」


この言葉に大人しくする。だって火神くんならやりかねない。連れてこられた場所は屋上。


「・・バスケ部じゃないの?」


火神くんは黙ったまま。扉を開け、担がれてはいってきたわたしを火神くんに何事かとみんな目を見張る。待っていたのはショートヘアの少女とテツヤ、あと知らない男子生徒が数人。火神くんは本入部届けをだしにきたみたいだった。というかここに来たひとはみんな。ついでにわたしもだせばいいってことだろうか。そしてなぜか少女は言った。ここから目標を叫んでもらうと。できなければ全裸で好きなこに告白。これは辛い。そしてそして、火神くんはなぜかわたしを担いだまま、全校生徒から見える位置へと移動していった。ヨユー、テストにもなんねーって言って。


「1−B5番火神大我!!”キセキの世代”を倒して日本一になる!」


もちろん火神くんの大声にびっくりしてざわついてる。ああこれってわたしも怒られるのかな。


「カントク!こいつも今から叫びます」
「ええ!?ちょ、火神くん!それ無理!」


ぽかんとする、がすぐさま口角を吊り上げ笑みを零す。


「面白いわね。いいわ!あなたマネージャー希望でこの前来た子よね?大歓迎!」


なぜか勝手に話をすすめられ、カントクといわれた少女に前へ押しやられる。こんな若い子がカントク?でも今は考えられる余裕なんかなくて。涙をため、無理と訴えているのにも関わらず、完全にスルー。そしてテツヤの姿が見えない。いるはずなのに見つけられない。これはなんなの!


”おまえだって変えたいんだろ世界”


ふいに思い出される火神くんの言葉。そうだけど。その通りだけど。こんな全校生徒の前でだなんていきなりハードルが高すぎるよ。目の前がくらくらする。なにも考えられない。今すぐ逃げ出したい。・・でも。前テレビで言っていたのを思い出した。大きく口を開けて、息を吸って、お腹から声をだす。


「1年D組7番黒子純!わたしはマネージャーとしてみんなを支え、必ず世界一にしますっ!」


この瞬間、自分の目の前の世界が広がった。心地よい風が身体を吹きぬける。いつのまにか身体の震えも止まっていて。わたしは勢いよく火神くんの方へ顔を向けた。


「・・っ言えた!言えたよ火神くん・・!」
「ああ、お前にしたら上出来なんじゃねえの?、てか世界一なんて生意気すぎだよ」


火神くんは笑って頭をぐしゃぐしゃとやった。怒るところなのに今はそれが嬉しくて。テツヤがわたしの傍に歩いてくる。


「純まで叫ぶとは思ってもみませんでした」
「わたしも・・まだドキドキしてる」
「カッコよかったです」
「えへへ、・・テツヤなにそれ」
「拡声器。僕声張るの苦手なんで」


テツヤが息を吸ったときだった。鬼のような形相をした先生が現れたのは。みっちりとお説教をきくはめになってしまったけどその時のわたしは先生の声など耳に届いてませんでした。あのドキドキは一生忘れないでしょう。そしてこれ以上のドキドキがこれから待っているのだと、わたしは胸を高鳴らせました。