ソレイユ | ナノ
「・・はぐれた」


桜満開の入学式を終え、登校すると朝から騒がしく部活勧誘がおこなわれていた。すごいひとごみに一歩も進めない。


「君、本好きなの!?」

「へ!?い、いえ・・これは兄ので、」


たまたま持ってただけで、と説明するが眼鏡のお兄さんは聞いてくれない。


(これじゃバスケ部に行けないよー)


なんとか強引に勧誘してくるお兄さんを押しのけ、その場を立ち去る。目的地へ向かう途中ある人物を捜すがこの人ごみではなかなか見つからない。私の兄、黒子テツヤははっきり言って存在感が薄い。血すじなのか自分も同じで、まあ兄よりはまともなのだが。先程も声かけてもらったし。想像するに、きっと兄はこの中を歩いていても誰にも気づかれることはなかったのだろう。やっと自分も目的地のバスケ部へと到着する。


受付にいた男のひとが終えたのか帰るみたいで自分の横を通る。あまりの自分との身長差に驚き見つめてしまう。

(うわー・・おっきい・・身長なんセンチあるんだろ・・)


見入っていれば途端に目が合い睨まれる。


「じろじろ見てんな、チビ!」

「・・・!!」


、と怒られてしまった。確かにそうだったのかもしれないけれど。149センチしかないからチビなんですけど。モノには言い方ってものがあるんじゃないですか。・・なんていえる勇気があればよかったのに。仕方ない。引っ込み思案なのは生まれつきだ。思ってることが素直に口にできず損している。中学校だってそれで友達できなくて、部活だってはいってたけどほとんど行かず幽霊部員扱いだったし今度こそ高校で、って思ったのに。いざとなると怖くてたまらない。どくんどくん、とうるさく鳴る心臓。震える身体を押さえ込むように唇を噛みしめる。


「黒子テツヤ・・、・・って帝光バスケ部出身!?」
「ええ!?あの有名な!?」


机に座っていた男女ふたりが声をあげる。


「うわーなんでそんな金の卵の顔忘れたんだ私!」


どうしよう。叫んでるあの中にいくのは行きづらい。やめようかな、なんて思い身を翻そうとすれば運悪く少女と目が合う。


「あっ・・」
「なに?もしかしてマネージャー希望?」
「え、えと」
「いいよ!まだマネージャーとってないし何年何組?名前は?あ、この用紙に書いて」
「すみません違うんです!失礼します・・っ」


ものすごい俊足で逃げる姿をぽかんとみつめる。


「なんなんですかね、あの子」
「いいわ、あの足欲しい!」
「ええっ!?」





「はあ、・・っはあ、はっ」


走らせていた足をゆっくりと止める。そしてそのままずるずると座り込んだ。

(やっちゃった・・)

今度こそ、と勇気をだしてきたのに。

(テツヤは、入部届けだしたんだ)

姿見て無いって騒いでたということはあのひとたちはテツヤに会ってない。今、この瞬間だけ存在感がないことが羨ましいと思ってしまった。

ごめん。テツヤ。