春を知らない蝶々 | ナノ
初めて友達ができた。高校デビュー、とはよく言うけれどまさにそう。彼女は橘菫ちゃん。名前を聞いたとき、あの橘くんと兄妹だったらどうしようかと思ったけど、どうやら彼女は一人っ子。ほんと、心臓に悪い。なにかよくないことが起きないといいのだけれど。入学式初日に困っているところを助けてもらって、そこから仲良くなった。運良く同じクラスでとても嬉しかった。
「どこか寄ってく?」
「ごめんね、これクラス分プリントして先生に届けなきゃ」
「そっか。でもクラス委員なんてついてないよね、また明日!バイバイ」
「うん明日ね!」
ほんとについてない。公平にあみだでやったのだが、見事クラス委員をあててしまった。プリントを抱えて、コピーをとる。ガチャンと音をたてて、規則正しい動きをしながら何枚も白い髪に文字がプリントされたものができあがっていく。私はただひたすらそれを眺めていた。平和だなあ、なんて思いながら。10分後。ようやくできあがったものを抱えて、部屋をあとにし、職員室へ向かう。やっと仕事が終わり帰れる。そうだ、帰りにミルクアイスキャンディーを買っていこう。たったそれだけで私は上機嫌になれる。少し、鼻歌を交えて廊下をあるく。職員室の扉の前にたち、手をかけた時だった。ガラリ、と扉が開く。あ、なんてタイミングが悪い、と思いつつ少し右にずれた。、とその時。
「・・あんず、・・ちゃん?」
懐かしい声にまさか、と嫌な予感。どくん、と一回心臓が音を鳴らして。さらにどくんどくんと、先ほどよりも速く、強く、鳴らしてる。聞き間違い?いや、そんなはずない。私が彼の声を聞き間違える筈はないのだ。ゆっくり顔をあげれば、・・そこには。
「橘、・・くん」
橘真琴くんがいた。