春を知らない蝶々 | ナノ
「ねえねえ君すごく綺麗に泳ぐね!」
「え、」
「まるでイルカみたい」
直球すぎる彼の言葉にただ私は目を丸くさせてぱちぱちと数回瞬きさせるしかできなかった。確かに他のひとに比べると速いかもしれない。けれどそこまで褒められるような泳ぎをしているわけでもない。だが、目の前にいる彼にはよほど私の泳ぎを気に入ってくれたのだろう。目をキラキラ輝かせて、まるで子犬のようにはしゃいで。私は思わずくすり、と笑みを零す。男の子は首を傾げていた。
「、ごめんなさい。初対面の子にいきなりそんなこと言われたの初めてで・・」
「あ、そうだよね!ごめん!僕は葉月渚!」
「私は仁科あんずです」
「あんずちゃんかあ。見かけない顔だけどここ初めて?」
「うん。お父さんの転勤でね引越ししてきたの。ここに通いはじめたのは昨日からだよ」
葉月くんは昨日!?と声をあげた。
「なにかスポーツやってた?」
「全然!でも泳ぐの好きだから」
「それであれだけ泳げるならあんずちゃんすごい選手になれるかもしれないね!」
「あはは!大袈裟だよ葉月くんは」
「そんなことないよ!あんずちゃんは水に愛されてるんだね!」
水に愛されてる。なんかある意味葉月くんは凄かった。表現の仕方は人それぞれだもんね。それでも・・。泳ぐことに水に愛されてる、愛されてないとか関係あるのだろうか。
「渚ー!」
遠くで誰かの呼ばれる声に葉月くんと私はそっちへ視線をやった。そこには男の子が二人。友達かな?
「その子は?」
「まこちゃん!ハルちゃん!この子最近引越ししてきた仁科あんずちゃん!泳ぎがとてもきれいなんだよ!」
「ちょ、葉月くん!?」
優しそうな顔をした男の子はふーん、と言って笑顔を向けてきた。もう一人、無愛想な男の子は表情を変えず私を見ていた。あああ。そんな凄くないんですよ。並です。普通です。だからそんな表情で見るのやめてええ!
「俺は橘真琴。よろしく」
手を差し出されて、慌てて握る。橘くんも握りかえしてくれた。
「よろしくお願いします!・・えっと、」
「ほら遙。挨拶ぐらいしてあげなよ」
「・・七瀬、遙」
ぶっきらぼうに、淡々と自分の名前を告げる七瀬くん。七瀬くんはそのままプールへ飛び込んだ。
「ごめんね。遙は不器用なだけなんだよ」
「大丈夫です」
七瀬くんの泳ぎに見惚れてしまう。なぜかうずうずして、ほんのちょっとだけ七瀬くんと競争してみたいと思ってしまった。我ながら馬鹿な考えをしたと思う。女が男に勝てるわけがないのに。

「あんずちゃん!マコちゃん!競争しよ!」
葉月くんに手を引っ張られて私と橘くんは水の中へ。私の泳ぎを見た橘くんも綺麗だと褒めてくれた。なぜか葉月くんに言われたときよりも嬉しかったのは内緒。


こうして、私は彼らと出会った。