春を知らない蝶々 | ナノ
あれから着替えを借りて、身支度を整えた後、話すのが苦手な、つたない言葉を皆は聞いてくれた。途中昔の記憶が蘇って泣きそうになったけどずるいと思ってなんとか堪える。相変わらず七瀬くんの視線は痛く、橘くんは視線を逸らし、葉月くんはなぜか瞳を潤ませていた。

「ちょ、葉月くん!?」

涙をながす葉月くんに慌ててハンカチを差し出す。なぜ彼が泣くのか分からず慌てていれば謝ってきた。

「ごめんあんずちゃん・・僕たちそうとは知らずにいろいろと酷いことを・・」
「ええ!?そんな・・酷いのはわたしで」
「ううん!僕たちだよー」

葉月くんの涙を見ていたらなんだか自分まで悲しくなってきて、

「・・っ、・・泣かないでよ・・
悪いのは葉月くんじゃない、よ・・わたしだよ、ごめんねえーみんなー!」

葉月くんと二人してその場に泣き崩れると今度は橘くんや七瀬くんが慌てる声が聞こえた。ああ、もうほんと今日はとことん駄目な日だ。

「泣くな」
「つ、?!」
「ハル!?ちょっなにして」
「うえー・・・」

チョップをくらわされ、ぐすぐす泣きじゃくる。痛い。でも、嬉しい。

「何笑って」
「なんか嬉しくて。こうして皆とまた話せるようになって嬉しい」
「僕もだよ!」
「うん、ほんと良かった。ねえあんずちゃん、少しずつでいいからまた泳ぐことが好きになってくれると嬉しいな」
「・・・橘くん」
「あっ、また苗字呼びになってる」
「・・・急には無理・・・」
「なんで?」
「恥ずかしいもん」

橘くんと顔を見合わせ、笑った。
遅くなってきたので慌ててお暇する。

「七瀬くん洋服ありがとう。洗って返すね。」
「いつでもいい」

相変わらずのぶっきらぼうの物言い。今は全然気にならない。

「風呂場でのことは悪かった。」
「・・・べつに・・・いいよ」
「また明日ね。ハル」

家をでて橘くんと一緒にならんで帰路についた。昔はスイミングスクールの帰りによくしてたな。その時とは随分変わってしまったけれど。

「そうだ、俺のアドレス教えるからあんずちゃんのも教えてよ。」
「え・・・?」
「ダメ、かな?」
「ううん!ダメじゃない!」
「良かった・・・」

はにかむ橘くんに頬が熱くなる。携帯もってなかったからやり取りするの初めてだ。緊張する。赤外線通信とやらを教えてもらいながらなんとか無事に登録することができた。

「これでいつでもメールや電話できるね」


自室にはいり、ベッドに寝転がりながらスマフォを片手に何回も見てしまう、グループ欄には「橘真琴」の文字。変なの。なんでこんなに胸が熱くなって、ドキドキするんだろう。

しばらく顔は緩みっぱなしだった。