春を知らない蝶々 | ナノ
水に溶け込んでいくあの感覚が大好きだった。水は裏切らないでくれる。最初は少し、勇気がいるだけで。


なぜか私は七瀬くんの家にいる。あの後、葉月くんに捕まったあと、強制連行という形で。見たい番組、録画してこればよかった。これは毎週予約が必要だな。
目の前にいる三人は全然言葉を発さないし。沈黙が痛い。ちらちらと気まずそうに目を泳がせていれば
「あんずちゃんなんでなにも言わずにスクールやめちゃったの!」
ほらきた。どうしよう言い訳考えてなかった。
「別にいいじゃん。泳ぐのに飽きちゃっただけ!」
「嘘」
「な・・!」
葉月くんはばっさりと否定した。あああ、もう。私のことなんかどうだっていいじゃん。帰りたい。なんだか居心地が悪いし、イライラする。過去を知られたくないからって、馬鹿だ私。
「僕たちが心配していなかったとでも思ってるの!?」
「・・う、」
「すごく心配したんだよ!いきなりスイミングスクール来なくなっちゃうし、家電に連絡つかないし、引っ越ししちゃってるし!」
「ごめんね、葉月くん。心配してくれてありがとう」
それよりも気になることがひとつ。私は身体を橘くんの方に向けた。
「橘くんでしょ?葉月くんに私がこの学校にいること喋ったの」
「まさか!渚が見つけだしたんだよ」
「・・どうだか!」
「え!え!?、マコちゃんは知ってたの!?あんずちゃんがこの学校にいたってこと!」
「まあ、ちょっとね」
「えー!ずるーい!なんで知ってたのに教えてくれなかったの!?」
「私が橘くんにお願いしたの。皆には黙っていてほしい、って」
「なんで、」
「理由は橘くんにも言ってない。だから言えない。」
淡々と話す私に葉月くんはふくれっ面。可愛い顔でキ、と睨みつけてくる。
「あんずちゃん僕たちのこと嫌いになっちゃった?」
「へ!?や、違うよ?嫌いになったとかじゃ・・」
「昔は僕たちのこと名前で呼んでくれてたじゃん」
葉月くんの言葉にぐ、と口をつぐませた。そんな昔のこと、よく覚えてるな。
「呼んでくれるまで帰さないよ!」
「渚、それだと話の主旨が違ってくる・・」
「ほら!」
「・・っ、」
「ほらほら!最初は?」
「な、・・」
「次は?」
「、ぎ、」
「最後!」
「っ、渚・・くん・・」
「よし!よく言えました!」
悔しい。この笑顔には昔から勝てないの知ってて利用したな。まったく可愛い顔して意地が悪い。ほんと、敵わないと思った。