春を知らない蝶々 | ナノ
「昨日あんずちゃんの夢を見たんだ!」
「ぶふ!」
いきなりの渚の言葉に真琴は飲んでいたお茶を吹き出した。
「どうしたのマコちゃん!」
「渚こそどうしたんだよ」
「これはなにかの前触れだと思うんだよね!僕あんずちゃん捜してみる!」
「ちょ、ちょっと待て渚!探すったってこの学校にいるとは・・・」
「いるよ!だって夢の中であんずちゃんが教えてくれたんだもん!」
真琴はそんな馬鹿な、と思ったがなんにせよ当たっていることに驚いている。どうやら渚は天ちゃん先生に聞くとのこと。名簿、かあ。これは以外と早く見つかりそうだ。自分のせいではない、と思いながらもなぜだか罪悪感でいっぱいだった。


「っくしゅん!」
続けてもう一回くしゃみをすれば鼻をすする私に一緒にお昼を食べていた菫ちゃんと江ちゃんが話かけてきた。
「大丈夫?」
「うん。二回、ってことは誰かが噂してるのかも・・・」
「七瀬先輩たちだったりして!」
「江ちゃんそれ笑えないから」
「なんで言わないの?同じ学校にいるのにー」
「あんな理由言えないでしょ、それに勝手にいなくなってまた勝手に現れるのは・・ねえ?」
「よく分からないけど心配してると思う先輩たち」
「・・・」
菫ちゃんが「話の途中にごめんね」と謝りながら申し訳なさそうに言葉を続ける。
「あんずちゃんが言いたくないのは分かるけど黙ってられた方の気持ちも考えてみて?きっといい気分しないだろうから」
「・・・うん、それは分かってる」
「ならいいの。生意気言ってごめんね」
「ううん。ありがとう菫ちゃん」
菫ちゃんに頭を撫でられて、反対側から江ちゃんに抱きしめられた。二人の言いたいことはよく分かってる。私だってどんな理由があるにせよなにも言われずにいなくなられたら嫌な気分になる。でもあのときの自分にはそんな上手く言えるほど気持ちの整理ができてるときでもなかったし、他にどうすればよかったのだろう。もやもやとする気持ちを抱えて教室へと戻るために足を進める。席へ座れば丁度昼休み終了のチャイムが響いた。


今日もようやく長い一日が終わった。まだ気分が晴れたわけではないけれど。ちらり、と腕時計に目をやる。あ、やばい!もう五時回ってる。今日は見たい番組があったことを忘れていた私はもの凄いスピードで階段をおりて、下駄箱へと向かっていた。途中、階段を登ってくる男の子と遭遇。リボンの色からして一年生だ。私は少しスピードを緩めて、一段抜かししていたがそれもやめて、静かにおりてみる。近くで見るとますます可愛らしい感じの子だなあ。ちょっとあの子に似てるかもしれないなー・・
あれ?え、あれれ?私は目を見張った。そして身体を硬直させる。だらだらと冷や汗みたいなものが身体からでる。私は直様身体をもときた道へ向け、逃げる体制をとった。、がそれは叶わない。なぜなら男の子が目の前にいてしっかりと私の手首を掴んで離さないから。
ああ、神様。私はなにか悪いことしたのでしょうか。橘くんといい、なんでこんなについてないんだろう。
「逃がさないよ」
「デスヨネー」
笑ってるのに黒い葉月くんの笑顔を見て、背筋がぞっとなった。