初心な女の子(15/15)




今まで付き合ってきた女はどれも似たような性格の奴ばかりで、そう長くは続かなかった。恋人を愛していなかった訳ではないが、「飽き」と言うものが来たのだろう。決まって俺が別れを告げていた。
最低な男かもしれない、俺は。実際別れを告げてから幾度となく「最低な男」と言われ続けてきたのだから、本当に俺は最低な奴だと思う。
だが、飽いたんだ。今更好意も薄れた女とキスやら情事やら出来るはずがない。相手への色欲など、既に消えてしまったのだから、こうなったら別れるしかないだろう。
そうして俺は幾人かの女と付き合って、別れて、今に至るまでかなりの時が流れた。危険な仕事に忙殺されている日々の中、女と付き合っている暇はなかった。
然し、ある一人の女と出会って、久方振りの恋をして、想いを告げて、晴れて恋人同士になれた。そいつはU.S.S.の医療班で、任務こそ共にすることはないが、任務で怪我を負った俺を看てくれたのがそいつ…ルナとの始まりだ。一生懸命俺の傷を治療している姿から、何処か惹かれるなにかを感じたのかもしれない。
想いを告げた初め、ルナも驚きを隠せないでいたが、ゆっくり時間をかけて俺の想いに応えてくれた。
とても嬉しかった。こんな感情は久し振りだった。

だがしかし、少し問題なことが。いや、俺からしたら寧ろ喜ばしいことではないんだが…彼女は、ルナは。


「…おい、そこまで固まらなくてもいいだろう」
「や、あの、その、えっと」

男性経験が全くない。
俺が初めての男と言うことだ。その証拠に、手を握っただけで顔を真っ赤に染め、ビクビクしている。
男の俺からしたら嫌なことではない。「何をするのも自分が初めて」は、男を優越感に満たさせる最高のものと言ってもいい。長らくの間、恋を忘れていた俺にとっては何とも嬉しいことだ。
だが、一つ悩みがある。そろそろ…もうそろそろだ。

…何かしら進展しないのか。


「あ、その、ハンクさ、ん」
「…何だ」
「も、げんかい…です」
「ああ…すまんな」

手を握って数分で限界。ここまで男に慣れていないやつは初めてだ。
最初は反応が可愛いと思ってそのままにしていたが、俺だって男。それなりの進展は欲しいものである。しかし、だからと言って無理に進めるのも彼女にとっては悪い。酷く初心な女の心は、ガラスよりも脆く出来ているからだ。
とは言え、ルナへの色欲は日に日に高ぶるばかり。欲に溺れて間違いを犯しては駄目だ。その為には少しでもこのぎこちない関係から進展しなければ。


「…すみません。ハンクさん」
「謝らなくていい。慣れていないからな、当然のことだ」

ルナに謝られて、自分が許す会話もそろそろ止めたいところだ。

「あの、ごめんなさい。直ぐに慣れますから…」

その台詞、何回も聞いた。慣れる慣れると言って、一体何か月経っている…。

「………」

仕方が無い。少々強引かもしれないが、俺から進展させるとしよう。
ルナには申し訳ないが、このままでは自分が危ういうえに、ルナもそのうち罪悪感を強く感じ始めるだろう。
ぎこちない関係が悪い方向に転ぶことだけは避けたい。何故なら俺はルナを好いているからだ。
飽いた関係で終わらせたくはない。俺は強くそう思った。


「ルナ」
「はい…って、ふぇ!?」


俺はルナのか細い身体を力いっぱいに抱き締めた。
U.S.S.の医療班とはいえ、それなりに訓練されているルナの身体は程よく筋肉がついていて気持ちが良い。仄かに香るシャンプーの匂いも、俺の鼻孔をやんわりと刺して酔い痴れる気分にさせた。

「あ、ハンクさん、あ…あ、の…っ」
「何だ?」
「あ、い。や、そんな…っ」

抱き締められた彼女の反応は、予想通りのものだ。顔を真っ赤に染めて、口を幾度となく開閉させて、これ以上とないくらい目を見開いている。
俺はルナの言葉にいつもより低い声で返せば、彼女は更に顔を真っ赤にさせた。
それが面白くて、可笑しくて、思わずふっと笑みを零してしまった。

…可愛い。


「…すまんな、慣れさせようとしたんだが…無理があったか」

そうは言っておきながら、俺はルナを離さない。

「い、いえ…っ。そ、そんなことはない…ですよっ。全然慣れなかった私が悪いですし…寧ろ…助かります…」
「そうか? 心臓の鼓動がとても速いが」
「へ!?」

ルナの胸が俺の身体と密着している所為か、ドクドクと脈打つ心臓の鼓動がはっきりと解る。
それと同時にまたもやルナの顔がぼっと赤くなった。


「あ、ハンクさ、えっ…と。そそその…」
「慣れるまでは時間がかかると思うが…頑張ってくれ、ルナ」
「ハンクさん…」

激しく混乱するルナを落ち着かせるように頭を優しく撫でてやれば、不思議と身体の震えは止まり、赤に染まっていた頬も柔らかい桜色になった。
然し抱き締められている状態がまだ恥ずかしいのか、ルナはただ無言で頷いた。

「……」
そんな姿に可愛いな、と思いながらも言葉に出さない。
口に出したいのは山々だが、言ってしまったら彼女は流石に失神してしまうだろう。何かと大変なことになりそうだ。


俺はルナに何か言おうと、しっかりと彼女を腕の中に閉じ込めて、口を桜色に染まった可愛い耳元に寄せる。
ルナは反射的に両目を強く閉じ、身体を強張らせて自ら俺の身体をぎゅっと抱き締めてきた。


ああ、なんと可愛いのだろうか。俺は、今とてつもなく幸せだ。


俺はルナに何か言おうとした。
それで自身の口をルナの耳元に寄せた。


それで…何が言いたかったんだろうか。何をルナに伝えたかったんだろうか。
幸せすぎて忘れてしまった。


まぁいいか。この温もりさえルナと共有出来ていれば、それでいい。



初心な女の子



---END---








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