不幸を知っているのは幸福な人間だけ
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 「不幸だ不幸だって言う奴は大抵幸せ者なんですよね球磨川先輩」

 へらへらと笑う、異質な少女は少年に語りかける。

 「不幸を嘆くのは幸せを、人生の絶頂を知っているから。私は知らない、そんなものわかりはしない。だから私は幸せでも不幸でもない。私は―――悪くない」

 『そうだよ零ちゃん。君は何一つとして悪くない』

 「ですよね―――いいや、そうじゃなくちゃいけない」

 へらへらと笑う少女の目には、曲線ばかりが映る。
 彼女の目の前にいる球磨川禊という最悪の過負荷(マイナス)、もとい負完全さえ、ただの歪んだ曲線の人形にしかうつっていない。

 『君は悪くない、君は悪くないんだよ』

 にこ、と人懐こい笑みを浮かべた球磨川禊は、少女の頭を撫でる。
 少女も、つられるようににこっと笑った。
 けれど、少女の瞳は球磨川を見ているけれど、一方で球磨川を見ていない。

 「分かっていますよ、球磨川さん」

 にこにこ、ではなく。
 へらへらと笑う彼女を見つめて、球磨川禊は口を開く。

 『じゃあさ、近くに出来たハンバーガーショップにでもいかない?』

 「はぁ?」

 どうせ彼女は過負荷(マイナス)である―――友人、或いは先輩なんかと、どこぞのジャンクフードなんか食べた事無いだろう。
 一緒に食べようなどと誘われた事さえないだろう。

 『どうせ暇なんでしょ? 友達もいない家族もいない、そんな君には時間が有り余っているはずだ』

 「あはは。構いませんよ」

 『そっか、じゃあ行こうよ!』

 ぱっと表情を明るくさせた球磨川に、ニィ、と笑みを浮かべる零。

 「そうですねー、わかりましたぁ」

 これが不幸というものなのだろうか。
 ―――私には、やはり不幸が分からない。

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テーマ「人外ファンタジー」
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