オイ、我が神よ
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 安心院なじみが死んだ。
 死因なんて俺は知らないけれど、安心院さんは死んだ、らしい。

 「……はあ」

 七億人いる悪平等のうちの一人である俺は盛大に溜息を吐く。
 つまり、安心院さんが死んだと言う事は、彼女が作り出した端末である俺の価値も殆ど無になったということだ。
 彼女が自分の端末を作った理由は、確か「一人で大量の個性を持つ」という、到底常人には出来ない目的の上にあったはずだ。

 「どうすっか〜」

 暢気に学校の屋上に寝そべる。
 もう夜になっているというのに、空に月は無い。
 ある日以降、月と言う存在はこの世界から消滅した。
 曰く、黒神めだかという救世主様が月をぶっ壊してくれたのだとか。
 どうやら月というものは時限爆弾だったらしくてね。
 ……とまあ、とくに興味もないわけだけど。

 安心院さんに茶化される日々は終わった。
 あの人にはきっと、もう会えない。
 ……俺という個性の存在価値も無に帰した。
 別にあの人を特別好いていた、というわけじゃないけれど、つまらない雑談をする相手としては楽しかった。

 ただ、俺はあの人がただで死ぬとは考えられなかった。
 獅子目言彦とやらが死に、不可逆が可逆になったというのだから、ひょっこり帰って来たって良いはずだ。
 まさかあの人は、死を楽しんでいるというわけじゃないだろうな?

 「そうだね。まあ、君にしてはまともな事を言っていると思うぜ」

 「……」

 幻聴だな。
 あの人は死んだのだし、まだ帰ってきてもいないはずだ。
 ……ふむ、頭が痛い。
 そりゃ当然か、だって誰かに踏まれているのだから。

 「……え」

 「やあ、久しぶりだね志々水颯」

 「わお……」

 何かの幻覚だろうか。
 それとも俺の脳が見せている虚構だろうか。

 自然、笑みがこぼれる。

 「お帰り、安心院さん」

 「ああ、ただいま」

 オイ、我らが神よ。
 些か帰りが、遅すぎるんじゃないのか?

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