嘘は泥棒の始まり
昔から、嘘をつくことはつまり泥棒になる一歩手前だとか言うけれど。
というか、この言葉は今言ったように長いものでもないけれど。
まあつまり、この人に関してこの言葉を使うのであれば、嘘は泥棒の始まりではなく、嘘は嘘吐きの始まり、なのだろう。
『まあまあいいじゃないか。そうくどく考えるなよ、零ちゃん』
「いやいや、考えるに決まってんじゃないですか。私のような一般人に貴方のような恐ろしい人間が一体何の用があるというのですか?」
『相変わらず長い文章読み上げお疲れ様』
「カンぺでもなく台本でもない台詞なので馬鹿にされると少なからず怒りを覚えるのですが、この怒りは一体何処へ向ければ宜しいのでしょうか?」
『いやだからね、僕は先輩として君をランチに誘ってみただけなんだけど』
「貴方に先輩面される覚えはありません、故に私がいつまでも此処に留まる理由も見つかりません帰って構いませんか」
ジャンクフード店でこんな長い会話をする人間もなかなか珍しいだろう。
私は一度喋るとやたらめったら長い文章を作り出してしまうのだが、話相手を問わずにこうなってしまうので、嫌いな先輩であろうが同級生だろうが、親愛なる友人だろうが、こんなウザい喋り方を披露するわけだ。無論、私の体力はかなり奪われ疲労するのだけど。
「そしてランチとはジャンクフード店でするものではないと思います。少なくとも私はランチというならその辺にあるコンビニで済みますので、私は此処で失礼したいのですが、お願いですからその泣きそうな顔止めてくれませんかどうせ泣く気も無いくせに」
『泣く気なんて最初っからないんだけどね』
「存在自体が嘘みたいな奴ですからね貴方は」
『うわー! こんな可愛い先輩の事を君は嘘だというのかい?』
「ええ言いますよ言いますとも―――それでは先輩またいつか気が向いた時にでも喫茶店に行きましょうか」
―――可愛いっちゃ可愛いだろうねこの先輩は。
後輩として言わせていただくと、何故こいつは先輩なのに先輩に見えないのだろうか。
年食っただけの、それだけに過ぎない存在だからだろうか。
いや、私より早く生まれた、それだけでもある程度の尊敬の念を抱くハズだけど。
席を立って足早にこのジャンクフード店を去ろうとしたけれど、手をがっちりと掴まれた。
球磨川禊は気持ち悪い。
クラス内ではそう囁かれる彼が、今、私の手をしっかり掴んでいる。
貴様が子供か。
実際中身は子供なのだろうが、年は私より一つ上である。
「何か御用ですか私は期末試験に向けての勉強に励まなくてはならないので早く帰りたいのですが」
『なんだよ、ホント君は釣れないね。つまんないぜ、零ちゃん』
「今更ながら私は貴様に零ちゃん呼ばわりされる筋合いはないのでその呼び方はやめてくれませんか球磨川先輩―――否、球磨川禊先輩」
『いいや、僕と零ちゃんとの仲だというのに、祓川ちゃんだなんて今更呼ぶわけが―――』
「貴方との関係は其処まで親密ではありません。それこそ親密であるとはおよそ言い難い関係であり、私は偶々此処に居ただけで、貴方は此処でハンバーガーとポテトを一緒に食べると言う奇行を行っていただけなので運命でも必然でもなくこれはただの偶然です」
ハンバーガーとポテトの食べ合わせはあまり美味しくなさそうだ。
いやまあ、やってみようとは思わなくもないが、しかし美味しくなさそうとなるとやりたくないものだ。
こいつならいつかコーラとコーヒーの飲み合わせなどやってみそうだ。
なんと恐ろしい事か、球磨川禊……!
『流石にそれはないかな……』
な、こいつはまさかエスパーか!?
『……Cかあ』
「この……!!」
顔が真っ赤になったのがわかる―――何故こいつはこんなに簡単に人のバストサイズを当てられるのだ。全くけしからん!
『だって明らかにCじゃん。Dには見えないぜ』
「死ね!!」
―――こんな会話が繰り広げられる。
これが私の―――日常であり普通だ。