や っ ぱ り ね !
ゆらゆらゆら。
と、現在水面にたゆたってます。
いやあ、気持ちいいねぇ。しかもこの状態で食べる団子はもう、ねえ?
至福の時と言っても過言じゃないよ。ああ、幸せ極楽。
いっそ成仏したい……私の場合はやっぱ地獄に落とされるかな。
「……ふむう」
適度な陽光。
適度な水温。
適度な心地。
「眠い」
水の中で眠れば溺死するのは目に見えているが、それでも眠くなるよ。
しかもゆらゆらと揺れちゃってるものだから、余計に眠気が増長されてる。
小さな欠伸をして、ぼけっとしながら空を見上げる。
遠野で空を見られるところと言うのは、妖気とかいう妖怪の気配? 的な霧に遠野全体が覆われているのでかなり少ない。
その希少な場所が、此処でもある。
他にも洗濯物を干すところとかも、一応空が見えるところだ。
だがお勧めはしない。
だってあそこは苔蒸してるんだもん。ずるって滑るよ。痛いよ。
もにゅりもにゅりと団子を食べつつ、水面にたゆたう。
幸せだ。
こんな時間を量産できれば……いややめよう、地獄に落とされる。
―――「好きなように生きてぇ、か」
―――「普通に考えりゃ無理だけどね」
―――「生まれたとこが悪かったな、てめぇは」
―――「あはは。……でもま、あんたみたいに本家じゃなかっただけマシだよ」
「……はぁ」
疲れた。
しかもよりによってふらっしゅばあーっく。
発音が悪いのは気にしない。
だって私は日本人だもん。
「……人間、か」
人であれれば、そう思った事は何度かある。
出来る事なら、人間に戻りたい。
まっとうな人間にはなれないんだろうね、私のこの性格だと。
まあ、私は現代で言うところのマイペースとかいう奴なので。
どうにかするっつっても、どうにもならないのが現状だったりするんだよ。
……いやあ、これってさあ。
てめぇそんな事言ってんだったらどうにかしやがれとかって言われそうだよね。
こういうのをふらぐっていうんだっけ?
なんていうか迷惑な話だよねぇ。
ふらぐが立った。ならば折れ。みたいな?
そんな事を淡島さんが言っていたような気がする。
ふらぐ、って言葉が何を表し、示すものなのかは生憎現代人じゃない私にはわからない。……旗、だったっけ? 記憶が曖昧でどうにもはっきりしないな。
で、どうやって折ればいいのだろうか。
はい結論。
そもそもふらぐを立てるような真似をしなきゃいい。
……え? そりゃどうやって?
ヒュッ、と風の音がした。
……不吉だなあと思っていれば、
突然髪が切れた。
「み゛ッ!?」
これが人語かと疑問に思うような奇怪な叫び声をあげて、あたふたする。
周りを見回してみれば、見覚えのある顔がいた。
彼はいつものように、私を睨み据えて言ってくる。
「またサボってやがったな、涼華」
……修行ふらぐきたぁ。
「あんたは超能力者か何かですか……」
突然私の髪をかっさらっていったのは鎌だった。
おかげで顔の端あたりにある髪の毛が切り揃えられた。あう。
鎌、という言葉で分かった人もなかにはいるんじゃないだろうか。
犯人はイタクさんである。
もうこの人に『さん』なんか付けたくない。
鬼だよこの人。
「……で、久々にゆるゆるしてた私に何か」
「修行だ馬鹿」
や っ ぱ り ね !
無言で逃げる私。
そして二秒と経たずに捕獲される。
「……」
早くない? 二秒でげーむおーばーだよ。
たった二秒、されど二秒、みたいなそんなノリで。
私が足遅いのか、イタクさんが早いのか。
絶対後者だよね、ね?
「嫌だぁぁぁあ……」
遠野のある場所にて。
どっかの馬鹿の悲痛な声が響いたが―――結果がどうなったかは、伏せておこう。