「違います」
数日経つと、流石に飛鳥達は帰って行った―――曰く、彼らには専用の家があるのだとか。
其処に連れて行ってもらおうとも思ったのだが、私はもう少しのんびりしたいという思いから、鴨川付近でのんびりとくつろいでいた。
平和っていいもんだねえと、京都は現在戦闘中だというのに、私は束の間の平和もどきを楽しんでいた。
ここにみたらしがあれば尚いいけれど、高望みはしないでおこう。
「川があるぞ!」
「其処に落とそう!!」
そんな声が何故か上空から聞こえてきて、なんぞと上を向く。
盛大に吹 き 出 し た 。
何事ですか。
とか、呆然としながら考えてみると、目の前の川に船が突っ込んできた。
「―――おぐあっ!!」
私がどうなったかは伏せておく。
×××
…………ごふっ。
そんな効果音が似合いそうな咳をして、入ってしまった水を吐きだした。おええ、生臭い。魚……とはいえないけれど、なんというんだ、この謎の生臭さ。
「……うん?」
水を吐きだし、深呼吸をして、首を傾げた。
「………………」
何十という目が私を見つめていた。
異形や人型の妖怪達は一匹の妖怪を囲んでいた。囲まれている妖怪の少女は顔を引き攣らせ、少し蒼白になりながら、目だけで周りの妖怪達を見る。
「……あの……」
「お前は羽衣狐の部下か?」
「いやそんなわけが」
囲んでいる妖怪の一人から問われた少女は、即座に返答する。彼女、もとい涼華は何処かで見たような見なかったような妖怪達の姿に困惑する。そして大前提を思い出す―――此処は京都である、と。
京都の妖怪にしては、彼らに禍々しさを感じなかった。怨念の塊やら恨みの塊で出来ている、といった感じではない。何処か人間味のある妖怪達だ。
「……?」
宝船の帆にある『畏』の一文字に、またも彼女は首を傾げた。
「……『畏』の代紋……あんたら奴良組ですか? なんでまあ、こんなとこに?」
理由はわかっていたけれど、彼女は脳内で推測した言葉を吐きはしなかった。
狐退治。この京都に巣食う妖のなかでも一等強く、京都に居る殆どの妖を統べる者―――羽衣狐という妖を殺しに来たのだろう、と。
「……ってその声!? 悪いちょっと退いてくれ!」
と、彼女を囲む妖達をかき分けて顔を見せた女に。
少女は思わず固まり、口元を引き攣らせた。
「……げ、淡島さん……?」
「やっぱ涼華じゃねーか! 何してんだよお前ー!」
「いやあの……」
「ったく、何処行ったかと思ってたぜ」
「理由の一端は説明しましたが……」
「ん? そーだっけか?」
淡島と涼華の会話に周りは完全に置いて行かれている。彼女ら二人だけで勝手に話が進んでいった。
「……というか、」
涼華がぽつりと。
「何故遠野と奴良組が? おかしいでしょう、貴方達遠野は誰かの側についたりしないんじゃないんですか」
「あー……まあまあ、後でちゃんと説明してやっから」
面倒臭そうに頭をボリボリと掻きながら淡島は豪快に笑った。それから、涼華ではなく彼女を囲む妖怪達の方へ向き直る。
「悪い! こいつ京都の妖怪じゃねーんだわ。俺らの仲間なんだよ、ちょっと勘弁してやってくんねーかな?」
「……!」
何を言いだすかと思えば―――と涼華は驚きを隠せなかった。まさか庇われるとは思ってもみなかったのだ。
「……えっと……?」
これは下手な事を言えない展開になってきた、と内心舌打ちしながらも、庇ってくれた淡島には感謝した。この重圧に耐えきれる精神は持ち合わせてないわけではないけれど、どうも苦手だったからだ。
「な、涼華!」
「……え、ああ……はい!」
一瞬混乱したが、何を求められているのか即座に判断する。
―――……うん? ちょっと待てよ。
この展開は一体どういった方向へ向かうんだろうと考えた。けれど、考えている間に淡島が告げる。
「だからこいつも連れてっていーよな? 遠野の仲間だったらいいだろ?」