prologue
かつて、高校生だった彼は泣いた。
「どうしてオレがこんな目に遭わなきゃなんねぇ」
かつて、全てに見離された彼は悔いた。
「諦めなければ、きっとこんな事にはならなかった」
かつて、何も知らなかった女は嘆いた。
「嫌だ嫌だ、私はこんな最期望んでなかったのに」
かつて、人であれど人でなかった少女は笑う。
「どうでも良い。私は私の好きなようにするだけだ」
皆、平等に好機が訪れるというなら、
これは、望まぬ好機に望まれた、最悪の結末を知った彼らの物語。
ある少年は言った。
好きなようにしていたかっただけなのに、こんな事になる筈はなかったのに、と。
オレは暴れるのが好きで、やってた事は道理に適っている筈だった、と。
ある青年は言った。
誰も僕を見てくれなかった。だからどうでもよかった。でも、こんなのは嫌だ、と。
許せなかった、故に諦めた。そうしたら後悔する事になったのは僕だったんだ、と。
ある女は言った。
こんな結末が待っていると知っていれば、あんな事しようと思わなかった、と。
こんな所で終わるつもりは無かった、私はあの狭い場所を抜けだしたかっただけだった、と。
ある少女は言った。
他人の事に興味は無いんだ、どうせ、興味を持ったところで私は忘れてしまうから、と。
今も昔も化物なのは変わらない、どうにもできない事はどうにもしない、と。
だが、悔いのないように生きてみたいんだと。
ねえ、と彼女は笑う。
誰もが望まなかった好機に、唯一楽しみを覚えている彼女は、人間らしい笑顔を見せる。
「私は自分が好きなように生きて、今度こそ好きな死に方で死ぬよ」
人としてある事も出来ず、
妖として生きる道しかどうせ残っていないのであれば。
残された道を、今度こそ悔いのないように。
そして、もしも可能なら、私は―――。