目高箱/女主

 ―――私には兄が居たという。とはいえだいぶ前に分かれている。彼の顔や声を全く覚えていないとはいわないが、高校生になった現在、兄の記憶は無いも同然だ。二卵性とはいえ双子なので、私と似たような顔をしているんだろうなと勝手に思っている。

 「兄さんの事が気になるのか? まあそんな事もあるだろう、だが父さんで妥協して我慢しなさい」

 ―――と、言った具合に、愛すべき娘に向かってなんともとんでもない事を言う親である。兄妹と親子は別物だと言ってみても聞く耳もたずで「俺で妥協しろ」やら「お前も我慢しろ」と返されるばかり。気になるもなにも、家族のことなのだから気にして当然ではないのか、という一般論はこの人には通用しない。一般論や常識が通じないのは今に始まった事ではないけれど。

 何せこの父親、自分の妻よりも姉に執着しているのである。私だけが父の傍にいて、母や兄が近くにいないのも、きっとそれが理由だ。

 曰く、「鳩姉にお前はよく似ている。顔が似てるだけだが」。
 曰く、「お前の家族は俺だけで我慢しろ。俺だって、鳩姉じゃないお前との生活で妥協しているのだから」。

 この男の妻……つまり私の母親にあたる女と子供を作ったのも、「姉に似た子が出来れば万々歳」という理由のもとに動いた結果だ。たまたま双子が生まれ、たまたま私が女だったから「鳩姉そっくりに育つんじゃないか」と、だから私だけが父のもとにいる。碌でもない男だ。

 私は別に父と過ごしていたいわけじゃない。父が妥協して我慢しているから、私も妥協して我慢しなければならないなんて理屈は通らない。通っていいはずが無い。十何年も我慢に我慢を重ねた結果、私は父に反抗してみた。言葉でどうにもならないなら行動を起こせばいいと思った。

 兄さんに会いたい。なら私はどうすればいいんだろうか。
 存在を認知されなくても、様子だけを確認できればよかった。だから、私は今ここにいる。

 ―――ここ、日本屈指とも言えるマンモス校、箱庭学園に。

2015/03/30 20:55


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