妖孫/男主

 妖怪なんていない。僕はそう思ってこの十三年を生きてきた。怪奇現象? 心霊現象? そんなものがある筈がない。起きる筈がない。単にストレスが原因だ―――その筈だ。

 「……なんだよもう…………」

 目の前には、明らかに人とはいえない何かが居た。いくら現実主義な僕だって夢は見る。勿論、寝ている時に見るアレだ。どうせこの変なのも夢じゃないのと頬を抓る。痛い。夢じゃないらしい―――それもそうだ。僕はさっき塾が終わって、これから家に帰るんだ。寝ぼけてなどいない。僕は結構真面目なんだから。

 「―――ヒッ」

 僕はビビりだ。目の前に居る異形が僕の方を向く。おぞましい顔があらわになる―――いいや、それを顔と言えるのかは怪しいところだった。けれど、おぞましいと言う言葉以外に表現する語彙が僕にはなかった。恐ろしく、この世のものとは思えない顔―――らしきもの。

 じりじりと僕は後ろに下がる。ヤバいと本能が警鐘を鳴らす。怖い怖い怖い怖い!!

 「オイ兄ちゃん」

 それが発する声は低くくぐもっていた。

 「オレが見えんのかァ?」

 見えないわけがないだろう、そう返そうにも声が出ない。膝は笑っていて、走りだす事など出来ない。やがて力が入らなくなった足はがくりと崩れ、尻もちをついた。ああ、情けない。僕は男だろう。男なら立ち向かわなくてどうする―――そんな小説で読んだような名言が脳裏を過るが、緊迫したこの状況で訳にたってくれるわけがない。言葉は時として力を持つらしいが、目の前の異業をうち倒す力を持っているとは思えない。藁にもすがる思いで言葉を発しようとした僕だったが、やはり怯えている所為で喉が全く動かない。喉はからから。自分の荒い呼吸だけが嫌にはっきり聞こえてくる。

 「何をしている!」

 ―――その女の声で僕はまた目を疑う事になる。黒い羽―――まるで鴉のような漆黒の羽が背中から生えた、女の人が空から降りてきた。おかっぱ頭にメガネの女性だ。

 なんだよこれ……。

2013/12/01 20:17


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