舞われまわれ | ナノ







一昨日はどっかのお偉いさん。
昨日もどっかのお偉いさん。
今日もどっかのお偉いさん。
お偉いさんだらけだ。
世界はお偉いさんを絶滅危惧種に認定しなくていいのだろうか。
そもそもお偉いさんってそんなにいるものだったかな。

暗殺の依頼はそれなりに来た。
その全部に私が駆り出されるわけではないのだが、死と隣り合わせの仕事ということもあり仕事内容は基本的にその場にいるメンバー全員で聞くことになっている。
これは仮に責任者が失敗した場合でもすぐに次のものが引き継げる態勢を整えておくためだ。

無論、この場合の失敗とは主に死亡を指す。

「今月は結構小口で来るのな」
リビングで一昨日の仕事での取り分を数えながらイルーゾォは笑った。

「よくまぁこんなに依頼が来るわね」
「お偉いさん相手ってのは怨恨よりも利害関係、事務的なものが多いから。
見せしめ、けじめ、漁夫の利狙い、複雑だな」
「そう。ってことはお偉いさん以外もあるの?」
「個人向け暗殺もパッショーネが仲介してるぜ」
「金を払ってでも殺したいって病的よね」
「かもな。病気だな。まぁそれで飯が食えるわけだけど」「殺したいってことはつまり一つの『愛』だと思うわけだよ」

私室へ繋がる廊下への扉を開けながら、メローネが顔を出した。
「メローネ、なんだ。任務終わったのか?」
「え、今部屋から来なかった?」
「部屋からも任務は出来るさ」
「そうなのか」
随分便利なスタンドだなぁ。
時限爆弾とか何かかな。
「で、さっきの話だ。
殺意ってのは中々に情熱的な想いだと思わないか?」
「どういう発想だよ」
「つまりこういう発想だ。
俺達は恋のキューピッド!」
「「は?」」
「だってよ、殺したいって相手にそこまで強い感情抱けるんだぜ。これは一種の恋だと俺は思うわけよ。頭ん中殺したい相手のことでいっぱいになっちまうんだろ?」
「わかるような、わからないような」
「でも何かが間違っているような」
二人でメローネの超理論に首をかしげる。
「俺達はそんな依頼者の熱い真っ直ぐで純粋な情熱を相手に伝えるキューピッドってわけ。
ディモールト感動的じゃん?」
そう語りながらメローネは完璧に悦に浸っている。
「そうなのかな」
反応に困りイルーゾォに尋ねてみた。
「変態の妄言だろ」
彼にしては珍しく、一刀両断だ。

(よほど殺しが上手くいったかで
きっとあいつ今ハイなんだ)
(なにそれこわい)