舞われまわれ | ナノ
「静かだ…」 朝、・・・いや昼過ぎに起きたらアジトに気配が無い。 いつもなら誰かしらの部屋からテレビの音とか音楽が聞こえてくるのだがそれがない。 リビングに行くと一人分の気配だけあった。 「あれ、メローネ」 ホールケーキを一人で食べている。イチゴのタルトだろうか、リビング中に甘い匂いが充満する。 「げ、マキナだ」 「げとはなによ、失礼な」 「だってーケーキ独り占めしようと思ったのに」 「あんたは女子高生か。食うなと言われれば食べないわよ。それで皆は、任務?」 「そうそう」 「それで鬼のいぬ間にケーキをホールで平らげようと」 「ほうほう」 「口に物入れたまま喋らなくていいから」 とりあえずカッフェでも飲もう。 あれ、キッチンが散らかっている。珍しい。 流しにおいてあるものを見てまさかと思いリビングのほうに声をかける。 「メローネ、それ自分で作ったのー?」 「ほぅー!」 またなんか口に入れながら喋ってるな。 「皆が帰ってくる前に片付けなよー」 プロシュートがこの状態を見たら切れるだろう。 なんだかんだでこのアジトの清潔さは彼によって保たれている。 手早く用意したカッフェを持ってリビングに戻る。 「あれー俺の分は?」 「自分で淹れにいきなよ。ついでに片付けること」 適当にテレビのチャンネルを変えながらカッフェを飲む。 甘さと体に広がる暖かさで満腹中枢が刺激される。昼はもうこれでいいかななんて思ってるとちくちくと視線を感じメローネを見る。 「何?」 「ケーキ一口ちょうだいーとか言わないの?」 「あんたが最初に独り占めするって言ってたじゃない」 見ればまだ三分の二ほど残っている。 「飽きたの?」 「若干。それ一口ちょうだい」 「いいけど、これも甘いわよ?」 「うー…ブラックが飲みたい」 「そう」 「ブラックが飲みたい」 テレビに視線を戻す。政治家が汚職疑惑を否定する記者会見が映し出されている。似たようなことが毎日ありすぎて特に面白みも感じられないのでチャンネルを変える。 「マキナー、ブラックー」 次はバラエティの再放送だ。 私ドッキリってあんまり好きじゃないのよねー。 チャンネルを変える。 「飲みたいー」 お、先週見逃したドラマだ。ラッキー、最終回直前だからか再放送をしていると言うわけか。 「マキナ!」 「うるさ、むぐ」 口にカッフェとは違う甘酸っぱい味が広がる。 タルトの上のイチゴを口に突っ込まれたようだ。 「これで同罪!ブラック入れてきてー」 「なんの罪なのよ」 テレビを見れば丁度CMに入ったところだ。いいところで邪魔されるよりは今行ってしまうほうがよさそうだ。 しょうがないなとため息をついて駄々をこねる大人のためにブラックコーヒーを淹れに立ち上がる。 「ついでに洗い物片付けてー!ね?」 「メローネ、それ可愛いと思ってやってるなら大間違いだよ」 「ケーキ半分あげるからー」 「飽きただけでしょー。食べ残しとか嫌」 「先輩命令!」 「…わかったわよ」 この手の再放送はCMが長いだろうと踏んで私は手早く洗い物を片付けることにした。
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