舞われまわれ | ナノ







「拷問は楽しいです、か?」

私は顔を上げる。
相変わらずに彼の手が肩にある。
怖い。

「あ?そうだって言ってるだろ、こんな楽しいことがほかにあるかよ!」
耳元で気持ち悪い笑いがする。
「そう…じゃあたまにはされる側になってみたらどう!?ブレインシチュー!」

半ば叫ぶように、震えを吹き飛ばす様に私は彼女を出した。
外に出て気付いた。
彼に出会って気がついた。

「磔にしてしまおう。」
彼の体が空中に固定される。
手のひらからはとめどなく血があふれ出る。
「てめえええええええ!!!こんなことしてどうなると…離せっ!!!!!」

世界は、こんなにも広いんだ。
このせまいコンテナ街でさえ、延々と続いてる。
外の空気の冷たさにびっくりしたけど、吸い込む空気は倉庫の中よりも幾分もすがすがしい。

暗闇は怖いけど、空には確かに星が輝いてる。

私は、ブチャラティのもとで人間に―


「あはははははははははっ!」

奴が笑い始めた。
狂ったの?

「愉快だぜ、愉快だぁ!!!!!!結局お前は拷問狂なんだろう?今まで自分を痛めつけてきた俺を今度は痛めつけられる側になって、さぞ楽しいだろうなあ!」
「え」
「結局お前はこちら側の人間だ。お前ここを出て何処に行く気だ?何処にもお前の居場所は無い、お前はそもそも人間じゃないんだからなぁ!そうだよな、拷問マシーン!!」
「ち、違う」
「何が違う?現にすぐに俺を殺そうとしなかった!お前は本当に傑作の拷問人形だよ!親にまで見離されたお前が何処に行くって言うんだ!誰が受け入れてくれるって言うんだ!お前は今自分の唯一の居場所を手放そうとしているんだぜ?あはははは!」
たがが外れたかのような馬鹿笑いがあたりを埋め尽くす。

違う、違うと思うのに、違うと思うのに。
歯がカチカチと震える。やめてよ、なにそれ。違う。違うんだ。
ちが、

ブレインシチューが力なく消えた。