舞われまわれ | ナノ







目覚めた理由が物音によるものなのか、時間の経過によるものなのか。それとも、鼻にこびりつく懐かしい匂いなのかは私には分からない。

「起きたか、どうだ懐かしいだろぉ」
目の前でありがちなスナッフビデオが再生されている。
…違う、目の前で起こっているんだ。
見知らぬ男性が猿轡をされ手足を椅子に縛り付けられている。
そして抵抗も哀願も出来ないまま指先から細切れにされていた。
下に溜まった血の量がすごい。道理でこんなに匂いがするわけだ。
「たまには初心に還ってアナログにやってるんだが、これもいいなぁあ!」
「−っ!!!!!!!!−−−−−−−−−ッ!!!!」
「何言ってんだぁ、聞こえねぇよ!」
楽しそうに彼は作業を再開している。返り血が飛んできそうなので私は避難した。
ブチャラティが買ってくれた服を汚したくない。
私が向こう側にいた唯一の証拠はもうこの服のみである。
『上映』は日が沈むまで続いた。
達磨になって動かないソレを床に転がし蹴るのにも飽きたのか、彼はおもむろにどこかに出て行った。
匂いが酷い。室内は濃厚な死の匂いで包まれていた。
外の空気を吸いに行くくらいはいいだろうと出口を目指す。
ソレを踏み越えようとしたとき出口に人影が見えた。
もう帰って来たのだろうか。
構わず歩き続ける。
「マキナ!」
しかし聞こえてきたのは待ちわびた―

「ブチャラ…ティ」

彼の声だった。