舞われまわれ | ナノ







いつものようにあれよこれよと、その日もフーゴとナランチャの3人で雑談に花を咲かせていた。
「任務だ」
しかしその空気は、店に入ってきたブチャラティの一言で、がらりと変わった。
こんな当たり前の前置きがある任務は久しぶりだ。
「内容は以前から俺が調べ上げていた件に関することだ。裏が取れたのでな、動き始める事にする」
そうしてブチャラティは任務の概要を説明し始めた。

カジノのディーラーの一人がジャンキーのようだ。
別にそれ自体は珍しい事ではない。
この界隈に生きていればよくあることだ。
今のボスになってからは特に顕著になった、と情報屋が零しているのを耳にしたこともある。

だが彼は自分の金で買える量ではもう我慢できないところまで、頭が飛んでしまっているらしい。
なんでも、組織の金に手を出しているそうだ。
更には金欲しさに売人も請け負うようになり、あろう事か子供に売りさばいているという。
買う金がなくなった子供には犯罪の斡旋も行っているとか。

しかも購入先は他のファミリー。
最近、粗雑な麻薬を安価でネアポリスに流しているという噂のシチリア系のところだ。そのクスリの入手に組織の金を使うという事は、他の組織に金を回している事になる。
組織としては大問題だ。

そこまで考えて気付いた。

「まさか、依頼主ってジョカーレ爺さん?」
「…ああ」組織が動いたのなら、カジノ全体が見せしめの意味を持って潰されるだろう。
それを爺さんは避けたいのだ、フィッリオの一人が犠牲になる事になろうとも。

「それで、どう動くんですか?」
私が折ってしまった話の腰を、フーゴが軌道修正してくれた。
「やっと取引の場所と方法がつかめたのでな」
「取り押さえるのか!」
「いや、違う。ヤクの出所をまずは確かなものにしたい」
嬉しそうに立ち上がったナランチャは、ブチャラティの言葉でまた席に着いた。
「くれぐれもディーラーに勘付かれるな。今はまだ、な」

ブチャラティのその言葉に三つ分の了解が返ってきた。