舞われまわれ | ナノ







「奇遇だな、面倒事か?」
「あ、いや。別に…」
「あー悪い、そうだよな。答えなくて良い」
しくじったと言わんばかりに、彼は視線を逸らした。

どうやらプロシュートは私が任務か何かでこちらに来たと勘違いしたようだ。
このままそれにあわせてしまおうか。
いやどうせすぐにボロが出る、やめておこう。

「ううん、任務とかじゃあないの。皆に会いにいこうかなって」
「俺らに?なら飯くらい用意してやるのに」
こんな湿気た店じゃなくても、なんて悪びれもせずに続ける。
その声に反応してカウンターのおじさんがこちらに視線を寄こした。
別段憤慨した様子もないが、じっとこちらを見ているのはなんとも居心地が悪い。
固まる私を知ってか知らずか、プロシュートは窓の外を眺めている。

「い、いやアポ無しだったし…今日はやめて帰ろうかなーって」
「…なんかあったろ」
何で分かった。
「…何で分かったって顔してんな」
おでこを小突かれた。
余程険しい顔をしていたのだろう。

「なんかあったって言うか、今更どの面下げて会いに行けばいいやらって」
「はぁ?どの面たってお前の面なんてそれだけだろ」
「そうじゃなくて」
そんなのくだらない屁理屈じゃあないか。

「異動の事、まだ気にしてんのか?」
「うっ…」
ど真ん中直球だ。
「自惚れんなよ、誰もお前ほど気にしてねえよ」
「…本当に?」
「それはそれで寂しいってか?」
「…2ストライク」
打者は球を目で追うのが精一杯である。
「あと一回でアウトだな。まぁ、だから気にせず遊びに来ればいいじゃねーか。むしろなんで来なかったんだっての」
「だってナターレとか呼ばれなかったし…」
「お前が来なくちゃ誰もおめでたいパーティーなんて企画しねえよ…どうした、呆けて」
「いや、そうだったんだって」
そういえば、毎年いる面子で飲んでるだけって言っていた気もする。

「てっきり、縁切られちゃったのかなって…」
「…お前が切りたかったら切っていいんだぜ?」
「いやだよ、切りたくない!」
思わず大きな声が出てしまった。
慌てて口に手を当てると、プロシュートは愉快そうに笑った。

「まっ、そういうわけだ。こちとらいつでも歓迎するぜ、マキナ」
「…そう言われると、嬉しい、かも」
「かもってなんだ、かもって」
プロシュートは笑いながら、そう言った。