舞われまわれ | ナノ







三人で黙々と溜まった事務作業をこなしていると、ナランチャが声を上げた。

「なんかさぁ、もっとこう、暴れるような仕事無いわけ?」
「あっても面倒なだけよ。この暑い中そんな仕事したくないじゃない」

今日もネアポリスは暑い。
ひと段落ついたら近所のジェラテリア、ひと段落ついたら近所のジェラテリア…。
呪文のようにその一言を頭の中で繰り返しながら私は書類を眺める。

「というか、あってもナランチャには回しませんよ」
「どういう意味だよォ!」
「ほらそうやってすぐ感情に任せるじゃないですか」

二人が言い合いを始めたのでますます私は仕事に没頭することにした。
関わらずに済むならそれが一番だ。
私はこの後ジェラテリアで美味しいジェラートを食べるんだ。
そのためにも早く仕事にかたをつけなくては。

「おい、マキナもなんか言ってやってくれよ!こいつ、年上への敬意が足りてねえんだよ!」
「そういうことは敬意を払えるだけの人間性を兼ね備えてから言ってください」
「んだとォッ!?」
私を巻き込まないでくれ。
「…ナランチャ、怒るのはいいけど手が止まってるよ」
皆が集中してくれれば、すぐにでもひと段落つくだろう。
「なんだよ、俺が悪いのかよ!」
「フーゴも、ナランチャの作業遅れるんだから突っかからないの」
「喋っただけで作業能率の下がるこいつが悪いんです」
「おい、お前それ遠まわしに俺のこと馬鹿にしてるだろ!」

駄目だ、私一人でも仕事を進めなくてはジェラートが遠ざかる。

「遠まわしも何も馬鹿にしてるんですよ。でも良く気付きましたね、驚きです」
集中集中。
「ッテメェ!!!表に出やがれ!!パンナちゃんよォ!!」
作業作業。
「…人の名前で勝手に遊ぶんじゃねえよド低脳!!!」
ドグシャァッ!!という音と共に私の見ていた書類に、先ほどまでフーゴがケーキを食べるのに使用していたフォークが突き刺さる。

「おいコラ、フーゴ…」
「とっとと表出ろよ、腐れ脳みそ!!!」
シカトかこの野郎。
「やったろうじゃねえか!後で吠え面かくなよ、パニーちゃんよォーッ!」
「ぶっ殺す!!」
メンチきりあう二人に私の声は届いていないらしい。

よろしい、ならば戦争だ。