舞われまわれ | ナノ







良かった。
両袖口とズボンのポケットを捜索している途中、背中に隠した私の封筒を見つけた。
このまま見つからなかったらこの場で彼を脱がすか、持ってかえってナランチャたちにお願いすることになっただろう。
封筒の中身を見て、内容物に変化が無いことをしっかりと確認する。
そしてその封筒をしっかりと仕舞い込んでから、少年を解放した。

急に自由になった体についていけなかったのか、彼はその場ですとんっと尻餅をついた。
「…殺さないんですか?」
「別に。ああ、でも…あんた最近ここらでスリしてる?」
「こっちまで来たのは初めてです。普段は観光客しか狙いませんが、人ごみに疲れたので…警察にでも突き出すんですか?」
言いながら少年は立ち上がった。
確かに町でも治安の悪いこの辺りには観光客は来ない。
正々堂々としているからだろうか、嘘をついているようには見えなかった。

「突き出しても賄賂渡して出てくるでしょ?」
「ええ」
悪びれもせず頷く。
こいつ、常習犯だな。
「…まぁいっか。とりあえずここらでの商売はお勧めしない。冤罪吹っ掛けられるわよ」
何よりここらはギャングの力が強すぎる。
他ならギャングに擦り寄っているチンピラに賄賂を握らせれば大抵のことはお許しが出る。
しかしここはそう甘い場所じゃあない。
渡す賄賂だって一桁違うものが必要になる。
そこらへんを分かった上で商売をして欲しいものだ。

しかし私はそれを彼に伝えるほどお人よしではない。
じゃあねー、と一言告げ私は帰り道を歩き出した。
「変な人だ」
失礼な呟きが、ため息交じりに聞こえた。