舞われまわれ | ナノ







カジノを出て、じりじりと暑い日差しに耐えながら歩く。
暑すぎる。
空を仰げば雲ひとつ無い青空で、太陽が輝いている。

ドンッ

「あ、すみません」
「いえ、こちらこそ」
暑さで朦朧としているうえに、上を見て歩いていたものだから前方から歩いてきた人に気付かなかった。
現実に引き戻され、すぐさまぶつかってしまったことを詫びる。
相手の少年は、気にした様子もなく去っていった。

「って、ちょっと待ちなさいよ」
「…なんです?」
東洋風の顔立ちの少年は、短い黒髪を揺らして振り向いた。
私は問答無用でブレインシチューを繰り出す。

その瞬間、彼が眼を見開いたような気がした。

もしかして見えているのだろうか。
それとも単に急に動かなくなった自分の体に驚いているのだろうか。
既に体を痺れさせてしまった後なので、実際のところはどうか分からない。

「今取ったもの、返してもらうから」
そう、彼は先ほどぶつかった拍子に大事な売上金をすったのだ。
しかし困った、何処に入ってるのか聞きそびれてしまった。
かといって体の麻痺を解けば逃げられてしまう可能性が出てくる。

「よし、じゃあ失礼しますっと」

少年には悪いが身体検査と行こうかな、と告げれば彼は満足に動かない眉を盛大に捻じ曲げた。