舞われまわれ | ナノ







「…馬鹿じゃないの?」
太陽に対して聞き入れてもらえるわけも無い悪態をつく。
暑いにもほどがある。
私はカジノへの最短距離の通りから外れ、樹木の多い公園に続く道へと経路を変更した。

公園で涼んでから、カジノへは向かおう。
なに、最終的に集金さえ済ませればなにも文句は言われないはずなのだから。

「暑いー…」
木陰のベンチに空きを見つけて、凭れるように座り込む。
たまらない暑さである。
公園の外、通りの向こうにジェラートの屋台が見える。
食べたい、しかし遠い。
動くことすら億劫になる暑さである。
まぁ動くしかないんですけど。
ああ、こんな時にギアッチョがいてくれたら!

「…うーん」

考えないようにしていたことを考えてしまった。
あれから一度もアジトへ顔を出せていない。
向こうからの便りがない以上、なんとなくこちらからは行きづらいのだ。
訪れるタイミングが分からない。
けれどそんなのこれから先も変わらない気がする。
どこかで当たって砕けるしかないだろうか。

「砕けたら嫌だなあ」
砕けるとしたら、アジトに誰もいないとかそういうことだろう。
遊びに行けば皆は受け入れてくれる気がしてしまう、そんな自惚れを抱いている自分がなんとも恥ずかしい。
そしてもしその期待を裏切られてしまったら、と。
そう考えていく機会を延ばし延ばしにした結果が今というわけだ。
砕けたら、嫌だなあ。

「…、さてっ」

まずは仕事を片付けなくては。

太陽が移動して、ベンチに光が差し込み始めた。
そろそろカジノへ向かおうか。
私は熱を帯び始めたベンチから立ち上がり、当初の目的へと歩き出した。