舞われまわれ | ナノ







覚束ない足取りといえどもチンタラ歩くのは性に合わない。
そう、数秒前まで思っていた。

「…わわっ」
猫が回収されていった翌日、私は未だしつこい眩暈と耳鳴りに悩まされていた。
けれどそうやって性に合わないと、眩暈を顧みずいつものように歩いていたら壁との間合いを計り損ねた。
壁に接触して踏鞴を踏んだものの、三半規管がやられてしまっているためバランスが取れるわけも無く。
「いったぁー…」
床に倒れた拍子に打ちぬかれたほうの肩をしたたかに打ちつけてしまった。

後悔先に立たずとは、まさにこのことである。

ぶり返す弾痕の痛みにその場で悶絶する。
過保護な周りの言うとおり念には念をと壁に手を付きながら移動すればよかった。
とりあえず起き上がらなくては。
この状況を誰かに見つかったら最短でも20分は説教されてしまう。
「マキナ!?大丈夫か!?」
見つかった。
「だ、大丈夫だからっ…!」
しーっ、と口の前に手を当てる。
ナランチャなら説教はされなさそうである。
ラッキー。

だが彼が騒ぎ立てれば意味が無い。
ブチャラティとフーゴ、2人から同時に説教を食らう羽目にもなりかねない。
最悪の状況じゃないか!

私のボディランゲージにナランチャは首を傾げつつも従ってくれた。
それを確認したうえで私は壁伝いにゆっくりと立ち上がる。
うん、ちゃんと壁に手を付きながら移動しよう。
打ちつけた腕の傷口が開かないか不安だ。
傷の確認をしようか。
救急セットは今リビングにあったはずだ。

リビングに向けて歩き出すと後ろからナランチャが付いて来た。
「どんな感じなんだ?」
「うーん、嵐の海へ小船で漕ぎ出した感じ…?」
漕ぎ出したこと無いから分からないけど。
「うへぇ、気持ち悪そう」
おえーっ、とナランチャは大げさなリアクションをして見せた。