舞われまわれ | ナノ







「あのぅ…そろそろ足が痺れてきたのですが」

膝上の猫は可愛い声でひと声鳴いた。
喉をゴロゴロ鳴らして擦り寄ってくる。
いや、そうではなくて。
しかし、あそこまで拒絶された後なので嬉しくないわけもないわけで。

「まあ、いっか」
「よくねえ!!!なんで俺には懐かないんだよォーッ!!」
私の正面のソファに座るナランチャが不満そうに声を上げた。

私が落ち着いた後、家の片づけをしていたらしいナランチャとフーゴがリビングに入ってきた。
泣き腫らした目を見られてしまったが、視界が歪んでしまっているせいだという事にしておいた。
現に今も歪みを原因に目じりに涙がたまっている。
嘘はついていないのだ、嘘は。

「僕にも懐いてきましたけどね」
何か書類をしたためながら、フーゴが口を開いた。
「おかしいだろう!マキナならまだ分かるけど、フーゴにもブチャラティにも懐いてるんだぜ!なんで俺だけ?」

だから子供が嫌いなんだよ、と心の中で突っ込みを入れておく。
それにしても、
「…困ったな、トイレに行きたいんだけど」
猫を抱きかかえて立ち上がると、やはり世界は揺れている。
眩暈というものは中々慣れない。
覚束ない足取りを察してフーゴが猫を私の腕から取り上げた。
おかげで両手でバランスを取ることが出来る。

「一人で歩けます?」
「ゆっくり行けば大丈夫」
歩けなかったらトイレにまで付いてくるとでも言うのだろうか。
有り得そうだから怖い。
フーゴの抱える猫にナランチャが手を出して、また手をはたかれているのを横目で見ながらトイレを目指す。

私が気絶した後、手足を折っただけのほうの男は情報チームが回収に来た。
おおかた情報を引き出してから始末するのであろう。
なので厳密に言えば彼らは恐らく情報チームではなく、情報チームの下請けという立場の者たちだったのだろう。
情報チームはまた別口で猫を引き取りにやってくるはずだからだ。
まぁ男と猫を同時に動かすことに抵抗を感じた、という可能性も考えられるが。
廊下の壁に手をつきながら耳鳴りからの逃避がてら、そんなことに思いを馳せてみた。

そうして猫と戯れること数時間後、予想外のトラウマを植えつけられたこの任務はあっけなく終わりを迎えた。