舞われまわれ | ナノ







<甘い、甘い>

「甘い臭いがすると思ったら、完成したのか?」
「うん、あ、今もってくるね」
リビングに顔を出したのはプロシュートだった。
私はキッチンにチョコを取りに戻る。

「おいペッシ、何俺より先に貰ってんだよ」
「え、兄貴…あぁ!!ごめんなさいぃぃ…!!で、でも返してください!」
プロシュートがペッシの手の届かない高さまで彼のチョコを持ち上げている。
必死に取り返そうとペッシはぴょんぴょん跳ねているが悲しいかな、まったく届きそうに無い。
プロシュートはその光景を楽しんでいるようだ、うわぁ、大人気ない。

「可愛い弟分いじめてるんじゃないわよ、プロシュート。チョコいらないのかしら?」
「うるせぇ、教育の一環だ。こういうのは年功序列ってもんだろ?」
「そんなのあげる人の勝手じゃない」
「…そんだけ楽しみにしてたんだよ、こっちは」
「うっ…」
そういわれたら何も言い返せないじゃないか、忘れていた身としては。

「あー…、冗談だよ。気負いすんな…それよりも、何であいつのと俺らの、包みの色違うんだ?」
プロシュートはギアッチョの包みを指差しながら言った。
「ああ、中身違うの。ギアッチョ甘いの好きじゃないから」
「特別製ってわけか。羨ましいじゃねーか、良かったなギアッチョ」
「っるせぇな!放っとけ!!」
ギアッチョは乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった。
何も耳まで赤くなるほど怒らなくても…。

「不必要にギアッチョ怒らせないであげてよ」
そのうち血管切れて死んじゃいそうだ。
「怒ってる?あいつが?…まぁ、そういうことにしておくか。マキナ、面貸せ」
「は?」
わけの分からない要望にプロシュートのほうを振り向くと、慣れた手つきで顎を掴まれ彼の顔が近づいてきた。
「え」
ちゅっ、という軽いリップ音と共に頬に何かが触れた感触が残る。
「グラッツェ、マキナ」
「…そ、そういうのは彼女にしなさいよ…」

頭に血が昇るのが自分でも分かって恥ずかしい。
如何せん、慣れていないのだから仕方が無い。
何故かプロシュートの後ろでペッシも顔が真っ赤である。
いやアンタ関係ないでしょ。

「なるか?彼女。お前さえよければしてやるぜ?」
「冗談やめてよ」
「まぁ、今はなぁ…」
そう笑ってくしゃくしゃに頭を撫でられた。
畜生、完璧に遊ばれた。

これ以上ここにいても遊ばれるだけだろう。
私はキッチンに逃げることにした。

チョコも取りに行かなくちゃ行けないしね。