舞われまわれ | ナノ







<最高の、>

キッチンに戻り、また別のチョコを持つ。
次にお世話になってるといえるのは、
「イルーゾォ、入るねー」
「ノックはどうした、ノックは」
「あれ、『こっち』にいる」

ノックもしないで部屋に入ると、珍しくイルーゾォの姿があった。

「いつも『あっち』にいるわけじゃあねえよ」
鏡を指差しながら、イルーゾォは言った。

そう、大体彼はいつもあちら側にいるのだ。
だから毎回鏡に向かってもう一度声をかけねばならないという二度手間が必要になる

なので私は一度目のノックを省いたつもりだった。
結果としてノックそのものを省いたことになってしまったのだが。

「チョコが出来たので渡しに来ましたよっと」
「…そうか」
反応薄いな。
まぁいいか。
「はい、どうぞ」
「どうも。美味いんだろうなぁ」
「多分ね。まだ感想誰からも聞いてないからなんともいえないけど」
「え、俺一人目?」
「ううん、リーダーに先に渡してきたよ。感想はまだ聞いてない」
「へ、へぇ。でもそうか、2人目か」

どうやら順番がお気に召したようである。

「だってお世話になってるし。世話になってる人から渡すもんじゃないの?」
「渡したこと無いからわかんねーよ」
「それもそうか。ねぇ、食べてみてよ」
「ん、今か?」
「うん」

頷けばイルーゾォは包みを開けてチョコを食べてくれた。
「ん、美味い」
「よかった」
安心して他のメンバーにも渡すことが出来る。
「じゃあそういうことで」

部屋を出ようと踵を返す。
「マキナ」
ドアノブに手をかけたところで呼び止められる。
「なに?」
何か問題があっただろうか。
「ありがとうな」
「…どういたしまして」
イルーゾォがあんなに嬉しそうに笑うのは初めて見たかもしれない。
あんな顔が見れるなら、チョコ作りもいいものだ。