舞われまわれ | ナノ







「ブチャラティ!これを見て!」
学校から帰ってきたマキナは一目散に俺のところへ駆けてきた。
「どうした?」
彼女が差し出してきたのは100点のテストだった。


彼女が来てからもうすぐ一年である。
すっかり普通の生活を取り戻した彼女だが、傷跡も多い。
日常生活のふとしたところでもそれは現れるのだが、一番はっきりと分かるのがやはり勉強面である。

この一年、彼女は誰よりも勉強を頑張り続けたが誰よりも歩みは遅かった。
小学校の基礎が出来ていないのだから、中学の勉強はどうしても難しいようだ。
それでも彼女は泣き言も言わずに学校に通い続けている。

勉強も本人曰く楽しいらしい。
何よりも同世代の友達との交流が楽しくて堪らないといった様子だが。
その証拠に試験前となると教科書を片手に遠い目をしている。

そんな彼女は国語で100点をとってきたということは素直に嬉しい。
しかも苦手としていた小説の分野でだ。
彼女には仕方が無い事かもしれないが、当たり前の倫理観、感情というのが麻痺している節があった。
相手への気配りは上手なのだが、それとこれは話が別のようだ。
心情を探るのが苦手なのは、自分が心を殺してきたからなのだろうか。
悲しいことを悲しい、辛いことを辛いと思わないように機械のように暮らしてきた、その5年間の歳月は彼女の心の歯車を確実に何処かおかしくさせていた。

「凄いじゃないか」
「でしょ!」

それでも、こうしてまた少しずつ彼女は歩んでいくのだろう。
壊れた歯車は直らないかもしれない。
だが、それを抜いたら全体が崩れてしまうかもしれない。
どんな環境にいたとしてもそれは確かに彼女の生きてきた道なのだ。
無かったことには出来ない。
けれど、その壊れた歯車を支えるように新たな歯車を構築していくことは出来る。

そうやって、成長していくのは誰であれ変わらないのだろう。

「お父さんにも見せてくるね!」
「ああ、でもあんまり騒ぐんじゃないぞ」
「はい!」


今日の夕食の当番はマキナだが、この隙にケーキでも買ってきてやろうか。
そうだな、それがいい。
手のかかる妹のようだった彼女は、いつの間にか俺の手を煩わせることはなくなった。
良い傾向なのだから、寂しいと思うのも違うのだが。

俺も成長しなければな。