舞われまわれ | ナノ
「アンタが前に言ってたこと…」 「ん?」 「その、あの人に、裏切られたら、って奴…」 「あぁ」
彼とその会話を交わしたのは、つい先日のことだ。 よく覚えている。 薄い曇り空を眺めながら私は空返事をした。
「やっぱり、あんなのは綺麗ごとだ」 「だよね」 すぐに同意したら、変な顔をされた。 それにしても雲は薄いのに、どうしてこんなにも太陽光はしっかりと遮られているのか。
「…なんで自分で認めてんだよ」 彼の声が少し低くなったので、私は窓の外から彼へと視線を動かした。
「まぁその通りだという自覚はあったし。結局はさ、裏切られてみなくちゃあわからないから」 「…そっか、そうだよな」 少年は一つ、ベッドの上で大きな伸びをした。 それから、こっちを見て言った。 「なぁ、あんたのこと信じていい?」 は? 「冗談、ちゃんと信じる相手は選びなよ」 何を言い出すのかと思ったら。 即座に斬り捨てれば、彼はとてもおかしそうな顔で笑った。
「あんたも同じこと言うんだなっ!」 「…二人にも聞いたわけね」 「うん、この前あんたと話した後に。二人ともおんなじようなこと言ってた」 「でしょうねぇ…」 「俺を裏切った奴は、いつも俺を信じろって言ってた。だから俺信じたんだ。でも裏切られちゃった」 彼は私から顔をそらし、窓の方を見るものだから表情は分からない。 けれども語る言葉の割には、聞こえてきた声は明るかった。
「でも、次はちゃんと信じられるかな」
そうして彼はこちらを振り向く。 その時、雲が切れた。 遮られていた冬の太陽が顔を出す。 その鋭い光に目がくらんだ私には、逆光の位置にある少年の顔は良く見えない。
しばし瞬きを繰り返し、瞳孔が縮めば視界は明瞭さを取り戻した。
「怖いけど、信じたいんだ」
少年は、笑っていた。 そんな風に笑うのは初めて見た。 その眩しさは、太陽にだって負けていなかった。 瞳孔はもうしっかりと縮んでいたのに、彼の笑顔は眩しかった。
「そう。それは素敵だね」
私もつられて目を細めた。
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