舞われまわれ | ナノ







二人の引っ越しが完了した夜、二人はそのまま部屋に住み始めた。
今頃終わらない片付けに頭を抱えている頃だろうか。
荷物はそんなに多くないはずなのだが。
やはりご飯くらいこっちで食べていけばよかったのではないだろうか。

「…静かだねー…」
そんなわけで現在、食卓についているのは私とブチャラティのみである。

「そうだな。だが、なんだか懐かしい」
「そうかも」

もうお父さんはいないけど。

「こんな感じだったよね」
「…ああ」
お父さんは口数の少ない人だったから、食事中は私が話すことにブチャラティが相槌を打つだけで。
まさに今のような状況だ。

二人がいないことが寂しいような、ブチャラティが言うように酷く懐かしいような。
何とも言えない気持ちが沸き起こる。
なんだか妙にそわそわしてしまう。
不快なわけではないのだが、とても居た堪れなくなる。
名前のみつからない感情ほど、こそばゆい物はない。

私は話題を変えることにした。

「あ、そうだ。ブチャラティ」
丁度話しておきたいことがあったのだ。
「ん?」
ブチャラティはコーヒーを飲みながら首を傾げた。
「女の子連れ込むときは言ってね。私お暇するから」
「ぶっ…!!!」
「え!?だだ、大丈夫ー!?」
慌てて台布巾を渡す。
気管に入ったのかげほげほと何度か咳込んだ後、ブチャラティは肩で一息してこちらを見た。

「っ、…マキナ…」
「は、はい…」
なんか怖い。

「お前が気を回すことじゃない…」
言葉の内容は酷く気遣わしげだが、表情と声にはそんなもの微塵も存在しないわけで。

「ご、ごめんなさい」

反射的に私は謝った。


(世界はそれを余計なお世話と呼ぶんだぜ。)