舞われまわれ | ナノ
少年の病室に顔を出すようになって数日。 彼は言葉数が少なく、未だ此方を警戒しているようだ。 まるで捨てられた犬のようである。
…ご飯を食べているときは本当に嬉しそうなのに。
きっともともとはとても明るい子なのだろう。 元気な頃の少年はどんな風に笑ったのだろうか。 あ、詮索しちゃ駄目なのだ。 難しいな。
今日も私は、何をするわけでもなくベッドの横の椅子に座り窓の外を眺めている。 ここの医者は昼間は基本的にいない。 往診をしていることもあれば、飲んだくれていることもある。 夕方からは明け方まで診察に応じてくれるので助かっているのだが。
そんなわけで日中の彼の面倒を見るものが一人は必要なのだ。 だから決して、ベッド脇からプレッシャーを与える為にここに居座っているわけではない。
「…なぁ」 「なに?」
その日は、珍しく少年から話し掛けてきた。
「なんであんた達…誰も、何も聞かないんだ?」 「話したいの?なら聞くけど」 「っ違う!でも…」 「私たちは何もあなたに強制はしない。あなたはここで目をしっかり癒して、お家に帰ればそれでいいの。私たちのことを知る必要も何も無い。それは私たちにも言えること。私たちもあなたのことを知る必要はない。だから聞かない」
こちらが教える気が無いのに、相手からだけ情報を聞くなんて礼儀に反する。
「俺はあんな家に帰るつもりはない…」 「…帰れる家があるって素敵なことだと思うけど。あ、詮索しちゃいけないんだった。でも家には一度帰りなさいね」 「…あんた達は、」 「そこから先は答えられないんだってば」
今言ったばっかりでしょうが、と微笑んでみても彼の表情筋は動かなかった。
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