舞われまわれ | ナノ







「ブチャラティ、おはよう」
「ああ、マキナ。おはよう」
今日の朝食の当番は私だ。
いまいちはっきりしない頭で、せっせと朝食の支度を始める。
といってもそんな手の込んだものではない。
昨日のうちに買っておいたコルネットに付け合せのサラダ、冷蔵庫にあるもので作った簡単なスープである。
ぐつぐつと煮えるスープを今一度味見する。
「うん」
適当に作った割には、なかなかの味である。
私は一度スープの火を消し、サラダを食卓へと運ぶ。
窓から差し込む朝日は、サラダボウルに反射してキッチンの壁に綺麗な花を咲かせた。

日差しは暖かそうだが、季節はもう秋の終わりである。


夜更かしでもしていたのか、少し眠そうなフーゴが定刻に起きてくる頃にはご飯は出来上がった。
「フーゴおはよう」
「おはようございます」
配膳を終えて席に着くとブチャラティがなんだか楽しそうに笑っていた。
「どうしたの?」
「いや別に、なんでもないんだ」
そうはいっても相変わらず楽しそうだ。
私がもう一度首を捻るとブチャラティは眼を閉じて続けた。
「大した事じゃあない、いやそうとも言えないんだが」
ブチャラティはそこで一息ついて、こちらを見た。
彼が勿体付けるなんて珍しい。
私が視線で先を促すとブチャラティは眩しそうに眼を細めて呟いた。

「いい朝だ」

あんまり嬉しそうに言うものだから、フーゴも釣られて笑っている。
私も声を大にしてそれに賛同したかった。
けれど私はそれを口にしてすぐに、それを失ってしまったから。
「そう、ね」
相槌を打つだけにとどめた。