舞われまわれ | ナノ







ビルの内部は予想外に明るい。
無骨なコンクリートが丸見えの天井や壁は一部抜けていて太陽の光があちらこちらから降り注いでいる。
壁には植物の蔦も絡んでいて、放置されてきた年月を物語っていた。

四階の、後ろの壁が根こそぎ無く外の景色が丸見えのその部屋に男は立っていた。
逆光で顔は見えないがきっと先刻のように笑っているのだろう。

「来ると思った。お前馬鹿そうだからっ。」
「悪かったわね。」
「でもまさか逃げたくせにまたついてくるとは思わなかったなぁ。」
「…。」

どっちだ。

男は余裕だとでも言うかのように、手をポケットに突っ込んだまま話している。
男は一人のようだ。
このビルに他の人間がいるようには思えなかった。
勿論、そうとは言い切れないのだが。
そこの警戒はフーゴにお願いして私は今はこの男を殺すことを考えなくては。

「そう睨むなよ。俺って紳士だからよ、勝つに決まっている勝負はそんなにしたくないんだ。」
「は?」
「俺の能力は言ったよな?空間を操れるんだ。はっきり言って最強だよな、自分でも言うのもなんだけど。」
だから刃向うのはやめておけとでも言うのか。
「じゃあなんでわざわざ能力を教えるのよ。」
「だからぁ、俺は紳士なんだよ。騎士道精神にのっとって能力を伝えておくのさ。無駄な戦いは避けようぜ。」
この絶対的な自信は何なんだ。

危うく冷静さを欠きかける。
もしかしたら相手はこれが狙いなのかもしれない。
それほどまでに相手の態度、言動、仕草は挑発的である。
これ以上会話を続けても私にとってプラスなどないだろう。
さっさとケリをつけたい。
あいにく私には騎士道精神はない。
相手がまだ会話を続けようとしようが構いはしない。
虚をつくタイミングで私は走り出した。
「おっと。」
のに、当たらない。

「そう死に急ぐなよ。」
そう言って飛んでくる蹴りを体をそらして避けた。
のに、当たった。
「なっ!?!?」

なんで?

「だぁかぁらぁ〜。空間が操れるって言ってるだろ?抵抗するだけ無駄だぜ。」
「うっるさい!!!」
当たらない。
「くそっ!」
当たらない当たらない。
「なんで、がっ…!!!!!!!!!」
避けれない当たらない当たらない避けれないわからない。

どうして?