舞われまわれ | ナノ







子供の頃から周囲は僕に期待していた。
将来、何かしらの分野で社会に貢献する立派な人間になるのだろう。
そうならなくてはならない、これは神が決めた運命なんだ。
誰しも同じ顔で、誰しも同じことを言った。

だから、失敗は許されなかった。
出来るのが当たり前だったから。

甘え方は、習わなかった。

「そういえば、スタンド出せたわね。」
「え、ああ。」
「能力とか、どうなのかしらね。」
昼食のプッタネスカを口に運びながら彼女は言う。
僕の、スタンド。
しゃがみこんだまま首だけを動かして周囲を窺う姿に、とても動物的なものを感じて嫌悪した。
スタンドは自分の精神。
これはつまり、自己嫌悪となるのだろうか。

「わかりませんけど、ろくなもんじゃ無いですよ。」
「そうかな。結構応用利くわよ。スタンドって。」
「そういうものですか。…これからどうするんです?」

話を変えたかった。
あんまり、あのスタンドについて考えたくない。

「一度ブチャラティのところに戻りますか?」
「ううん、戻らない。けりは今日中につける。」
「え。」

正直、戻るつもりで聞いたのだが彼女はそれを真っ向から否定した。

「ブチャラティに悪意を持った人間がいたらどうにかするのが私たちの仕事でしょ。」
「それなら猶更ブチャラティに伝えたほうが。」
「…私猫かぶりだから。」
マキナの口から氷のように底冷えのする声がした。
ぞわりと、背筋に寒いものが走る。
「ブチャラティの前ではどうしても、良い子でいたいのよね。」
まさに、感情の無いといった声でマキナは続けた。
「…殺し損ねちゃった。」
「え。」
「ううん、生かすのって大変ねー。」
決して聞き逃したわけではない、驚愕の意味で聞き返した。
しかし彼女は前者だと思ったようで、何事もなかったように昼食を再開した。
困った困ったと笑う彼女はいつもの笑顔だった。