舞われまわれ | ナノ







「ブローノ・ブチャラティ、パッショーネの構成員だ。」
噛み締めた奥歯が擦れて嫌な音を立てた。
殺そう、もう覚悟は出来ていた。
同時に、もう体は動いていた。

ブチャラティに害を成そうとする奴を生かしてはおけない。
ブチャラティの安全の為という大義名分を振りかざすがその実、そんな奴の存在が許せないだけだ。
けれど奴の能力は未知数である。
他の奴を一通り殺し勢力をそぐことも考えたが、彼はすぐにでもまた新たな集団を築くだろう。
パッショーネの利益を羨む者、恨む者は多い。
やはり、なんとしてもあの男を殺さなければ。
私の攻撃は相手に当たらないんじゃ意味が無い。
こういうとき手当たり次第に攻撃できるプロシュートやギアッチョのスタンドが羨ましくなる。
しかし今は無い物ねだりしている場合ではない。
突然、私が現れれば何かしらのボロを出すかもしれない。
そういった意味では顔が割れているのは話が早くてありがたい。

私は飛び出した勢いを殺さぬまま男に駆け寄り、確実に体に一線を叩きこ、
「嘘っ・・っく!」
めず私はその勢いのまま床に転がった。
「何だ!?」
「あいつ、昨日の!!!!」

おかしいな、確実に首を狙ったのに。
あの勢いなら首が飛ぶのに切った感触がなかった。
いや、刃は男の横を通り抜けたのか?
なんにせよそこに確かな手ごたえは無く私の体はそのまま床に投げ出されたのである。
床との強い摩擦により皮膚がひりひりと痛む。
が、痛がっている暇は無い、最初の一手で殺せなかったのはそんな痛みよりも尚痛いのだ。

「殺しに来てあげたわよ、死に損ない。」
すぐに起き上がるが、既に私は囲まれていた。
「怖いお嬢さんだ。」
輪の外で男はフーゴの隣で笑っていた。
「もっと怖がらせてあげるわよ!」
ブレインシチューを使いたいところだが、輪の陣形を取られては使いづらい。
囲む男たちは放っておいてボスを殺すことだけに専念する。
彼らに逃げられても男が死ねば彼らは普段の生活に戻るだろう。

トン、トン、と助走をつけて一番背の低い男めがけて走る。
うろたえた彼らの陣形は乱れる。
さすがは寄せ集めの集団だ。
まさか向かってくるとは思っていなかったんだろう。
私は低身長の彼の頭を踏み台にしてその輪から飛び出る。

そうして高く跳躍したところでボスに向かってブレインシチューを仕向ける。
ベネ!この軌道なら逃がしはしない。



あれ?

手ごたえの代わりに体に衝撃が走る。
敵の蹴りが私の腹を捉えていた。
「っ…!!!」
みぞおちに入ったそれのせいで息が出来ないまま私の体は床に転がる。
涙で霞んだ視界に男の振り上げた足が見えた。
これはキツそうだ。
奥歯を噛み締める、口の中も少し切ったようで血の味がした。