舞われまわれ | ナノ







「謝るくらいなら最初から暴れるんじゃねえ!」
まったくそのとおりだと、僕は頭を痛めた。

世の中には取り返しのつかないことがある。
それは無秩序という秩序が存在するギャングの世界でも同じだ。
いや、秩序がないからこそ取り返しのつかないこともあるのだ。
そのために隙を見せずに己をなるべく殺してきたつもりだったのだが。

「なぁ。」

何処か焦点の合わない瞳に見つめられ背筋に冷たいものが走った。
「…はい。」
「俺を刺せるか?」
「…いえ。」
男の言わんとしていることが分からずに眉に力が入る。
「刺してみろよ。ほら。」

そういって何処からとも無く男はナイフを取り出しこちらに向けてカラカラと滑らせてきた。
それと男を交互に見つめていると拾うよう顎で促される。
拾い上げてみると確かな重量がそこにはあり本物であることを知らされる。

「俺のことが刺せたらこのチームをくれてやる。」

酷く楽しそうに男は笑った。
後ろからはいつものか、と呟く声が聞こえこのような駆け引きが初めてでないことがわかる。
「刺せなかったら?」
「おいおい、刺せないのか?俺は抵抗しないぜ?でもなあ、刺せなかったら俺に死ぬまで忠誠を誓ってもらおうか。」
これは、僕が勝てないことが前提のゲームなのだろう。

「こんなことをしなくても、僕は仲間に入れてもらうために来たんですよ。」
「そんなこたぁわかってる。だがな、あらかじめ目上の者がどれほど尊敬に値するか分かった上で誓う忠誠とそうでないものとは、質が違うだろう?」
緩慢な動きで首を回しボキボキと鳴らしながら男は笑う。

「俺、無敵だからよ。」
貼り付けたような笑顔で男は言った。
「刺せ。刺してみろ。」

有無を言わせない迫力に促され僕は男に向かって駆け出した。