舞われまわれ | ナノ







「生命エネルギー…よくわかりません」
「ゆっくり理解していけばいいさ。それで、君の能力なんだな、今までの事件は」
少女は静かに、けれど確かに頷いた。

「『チーム』の人達は、人の脳に直接刺激を送るって。脳で感じた痛みを、人は再現しようとして、それでえっと…だから≪トラックに吹っ飛ばされたよ≫って脳に教えてあげると脳がそうなのかって体中骨折したりするんです。私はこの能力のおかげでここで飼って貰える様になりました。私にはそれしか出来ないから、飼ってもらえる次の所を探さないと」
「飼うだなんて言葉を使うな、君は人間だ。あー…本当に名前は無いのか?」
「あったかもしれませんが、もう覚えてなくて。あ、でも、この子は私の事、機械をもじってマキナって呼んでくれます」

嬉しそうに自身のスタンドを抱きしめて彼女は言う。
それにしても…彼女の話を聞けば聞くほど、チルコへの怒りは増していく。
こんな小さな子供に、なんてことをさせてきたんだ。

「いいか、もし君が今までの自分を機械だと言うのならば、それはしょうがない。しかしこの瞬間からは君は人間だ」
「…人間」
理解しているのかいないのか判断しかねる様子で彼女はうなづいた。

「行くあてが無いなら、落ち着くまでうちで生活するといい。いいか、君を飼うんじゃない。人として我が家に招待するんだ」
「…仕事は?」
「する必要は無い。学校へ行くんだ。いいな?」

途端、彼女の目が見開かれた。

「…しなくていいんですか?仕事を?」
「ああ。」
「良かった…っ」

絞り出すような声で、彼女は言った。

「お兄さん、ありがとう、ございます」
「ブチャラティで言い。それから敬語も不要だ」
「ブチャラティ…?」
「俺もマキナと呼ばせてもらってもかまわないか?」
「…うんっ!」

その時俺は初めて彼女の笑顔を見た。
彼女を救ったのは、ほんの偶然と俺の気まぐれで、この世界で何かひとつでも正しいことをしたいと思った俺のエゴかもしれない。
でもその笑顔が見れて俺は心底良かったと思ったんだ。