舞われまわれ | ナノ







「フーゴ、気分は大丈夫か?」
「ええ、すみませんでした。」
「いや、こちらこそお前にはまだ早かったのにあんなところに連れて行ってしまいすまなかった。俺の判断ミスだ、気にするな。」

それは僕自身が弱いということか。

「すみません…。」
「誰だって初めてのことは戸惑うだろう。」
「そう、ですか。」

そういう経験はあまりなかった。
初めてのことも、そつなくこなして来た。
こんな風に戸惑うことばかりなんて、今までなかった。
だからこそ、どうしていいのか分からないんだ。
自分という像が崩れそうで、頭が痛い。
たいていの疑問も悩みも書物とこの頭で解決できた。
初めての事でもコツはなんとなくわかるし、飲み込みも早いほうだった。
でも、この世界での出来事は書物に書いてある奇麗事なんて何の役にも立たなくて、コツどころか眼の前の現実さえ受け止められなくなる。
入団試験の時だって、炎を再点火した途端体が動かなくなった。
その原因は分からなかったが、ブチャラティの説明により大体のことは把握できた…気になっている。

でも、スタンド?生命エネルギー?
そんな超科学的なもの、実際に目にした今も理解の範疇を越えている。
おまけに僕とそう歳の変わらない少女は死体にも殺しにも動じない。
この世界の異常さは嫌というほど分かった。
それと同時に自分の弱さも嫌というほどに。
どうすれば、僕はこの世界で生きていけるんだろう。

「…ーゴ、フーゴ!」
「え、ああ。すみません。」
気付けばマキナも食卓についていた。
ブチャラティは食事を食べ始めていた。

「聞いてた?」
「いえ…すみません。少しぼおっとしてました。」
「もうー。他人事じゃ無いからね。昨日の奴らの残党がまだいるかもしれないから、出歩くときは気をつけてね。」
「スタンド使いの男は始末したが、他に同じようなのがいないとは限らない。」
「なんせ話を聞く前に自殺されちゃったもんね。」
「ああ、組織の情報部のほうに聞いてみたが入団試験に落ちたもののデータなんて無い様だ。くれぐれも気をつけて欲しい。」
「まだフーゴはスタンドも発現してないしね。外出するときは声かけてよ。ついていくから。」
「わかりました。」

僕は、自分の身すら自分では守れない。
無力なんだ、この世界では。
幾ら知識があっても飛んでくる火の粉を払うことは出来ない。

力がなくては。

力さえあれば?

仮にその力を手に入れたとして、そのとき僕はこの世界を受け入れきれるのだろうか。