舞われまわれ | ナノ







モヤモヤは募るばかりである。
昼食のボロネーゼを食べながら私は頭を抱えた。
いけ好かない新入りは朝と変わらずそ知らぬ顔で本を読んでいる。
彼に苛立ちを感じているわけではないのだからとなるべく友好的に接してみようと先ほど試してみたわけだが無碍にされてしまったし。
どうしたものか、ボロネーゼを噛み締めながら再度私は頭を抱えた。
それにしても、本日のお勧めというだけにこのボロネーゼ、絶品である。




何でこの女はあんな光景を見た後にわざわざボロネーゼなんて頼むんだ。
先ほどの光景と匂いがフラッシュバックしてくる。
そもそもよく腹が減るな。
僕はもう暫くは肉は食いたくない気分だというのに。

彼女は一体なんなんだ。
歳はそう変わらないのにこの態度の違いは。
このチームは新設のものだと聞く。
一体今までどんな生活をしてきたというのだ。


僕はもうここ以外で、生きていける世界は無い。
でもそれは言い方を変えればここでなら生きていけるという確信があった。
だからこそ入団したのだが、その自信も今日の死体と彼女のおかげで揺らいできている。
焦っては駄目だ、そんなことはわかっているのだが気持ちははやるばかりだ。
この世界で僕は生きていかなくちゃあならない。
なんとか、このギャングの生活についていかなくてはならないんだ。

思えば作り物でも資料写真でもない死体を生で見たのは初めてじゃ無いだろうか。

「…っ。」
途端、またあの一室の光景が脳を支配し胃から何かが競り上がってくるのをなんとか堪える。
「気持ちは分かるけど何か口に入れないと午後動けないわよ。」
何が気持ちは分かる、だ。

分かる奴がボロネーゼなんて頼むか!

「さっぱりするフルーツでも」
「平気ですから。」
「…そう。」
最低限の言葉で断る。
あまり口を開くとそのまま胃から何かが溢れてきそうだ。
そもそも個室とはいえここはリストランテ、食べ物の匂いに溢れ気分は益々悪くなる。

「ブチャラティ遅いわね。ちょっと上に連絡来てないか見てくるわ。」
「なら僕が行きます。」
そんな雑用なら後輩である僕がやるべきだ。
留守電が入っているか確認するだけでいいのだし、なによりここから離れられる。
「そう?じゃあお願い。」

彼女の返答に頷き急いで立ち上がったのが不味かった。
グラリと世界が揺れ、僕の視界はブラックアウトした。