舞われまわれ | ナノ







「ブチャラティ、お帰りなさい!」
「ああ、ただいま。何を持っているんだ?」
家に着くとこれ見よがしに紙を持ってマキナは玄関まで駆けてきた。

「良くぞ聞いてくれました!」
そういって掲げた紙を見るとたくさんの文字が書かれていた。
「読み書きは完璧みたいだな。凄いじゃないか」
「意外に覚えてるもんだね!」
へへんと胸を張る彼女を見て思わず頬が緩む。

「良かったな。…ん、覚えてる?」
「私だって、あそこにいくまでは一応小学校行ってたのよ?簡単な読み書きなら一応習ってはいたんだけど、結構忘れちゃってたみたいで」
そうだ、彼女は親に捨てられチルコに拾われたんだったな。
恥ずかしそうに頭を掻く彼女からは気にしている様子は見受けられない。
なので、俺も努めて気にしてない風を装う。

「その調子で生活面も頑張ってくれるといいんだがな」
「頑張ります!!」
「よし、飯にするか。父さんを呼んできてくれ」
「はい!」

とてとてと廊下のほうに消えていくマキナを見送りながら思う。
彼女の人生は小学校に行けていたと言う事から、7歳頃までは普通だったんだろう。
それが今は食事の時に食器を使うのすら苦労する状態。
一体、どんな生活を強いられてきたのだろうか。

俺が七歳の頃は、そうだ。
丁度両親が離婚した頃だろうか。
それでも、俺には父さんがいたしこんなギャングになった今でもそれは変わらない。
俺は父さんを選んだ。
それを後悔はしていないし、母さんも再婚して幸せに暮らしているに違いない。

しかしマキナはそれと同じくらいに親に捨てられすぐにチルコのあのチームに配属されたのだろうか。
俺が魚の捕り方を学んでいる間に彼女は人の殺し方を叩き込まれ人間以下の生活を強いられたのか、そんなことがあっていいのだろうか。
この世界は、ギャングと言うものは―。

「ブチャラティ?」
「ッ、マキナ」
「玄関に突っ立ってどうしたの?顔色悪いよ、疲れちゃった?」

ふと気付けば目の前にマキナがいた。
眉を精一杯八の字にして心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
どうもやはり彼女は人の気持ちの変化に敏感なところがあるようだ。
それはチルコの奴らの機嫌を伺いながら生きてきたためなのだろうか。
それとも彼女の元来の性質なのかはまだ俺には分からない。

廊下の奥で父さんがリビングに入っていくのが見えた。
「いや、なんでもない。少し、考え事をしていただけだ」
「そう?」
「ああ、さぁ飯にしよう」
正義感と矛盾、自己嫌悪、胸の中に様々な暗い感情が渦巻くのを感じながら俺は夕飯の支度に取り掛かった。