舞われまわれ | ナノ







「迷惑…だったか?」
帰ってきた言葉は、想像していたどの言葉よりも弱弱しいものだった。
ブチャラティの不安そうな表情を目の当たりにして今すぐにでも、自分の言葉を撤回したくなる。
怒るかとは思ってた、怒鳴られるかもとも思っていた。
でも、そんな不安そうな顔をされるだなんて思っていなかった。
まるで、お父さんを亡くした時みたいだ。

「そんなことないの!本当だよ!だって私、ブチャラティの力になりたくて組織に入ったんだもの!」
その言葉に嘘はない。
取り繕っているわけでもない。
今でもその気持ちは変わってはいないのだ。

「…ただ、私があそこで過ごした時間を私は微塵も後悔していないことを貴方に知っておいて欲しい。」
あんなブチャラティの顔を直視続けることはできなくて、途中から俯いてしまう。
いっそ、ブチ切れてくれたらどんなに楽だろう。

「そうか、…今回のことは俺の、わがままだったんだな。お前に理由を見つけて逃げていた。すまなかった。」
返ってきた声はいつもの凛とした彼の声であることに安堵して顔を上げる。

「でもね、貴方が私を必要としてくれたのは本当に嬉しかった。」
「俺が謝りたいのは、お前の仲間を侮辱したことだ。すまなかった。」

一気に緊張感が和らいで、肩の力が抜けると肺に新鮮な空気が入り込んだ。

「…そ、そうだね、謝ってもらわないとね。特大パフェ、今度奢ってね!それでチャラだから!」
「マキナ、お前変わったな。」
「こうでもしないとやってけないくらい濃いメンバーだったから。」
「そうか。特大パフェだな、わかった。スタッフに頼んでおくよ。」
「う、うん。」
あんなことを言っても彼はいつもの笑みを変わらず向けてくれている。
それがどんなに有難いことか。

ブチャラティの懐の深さを実感するとともに、それに甘えっぱなしの自分に気付いた。

「ごめんね。」
「どうした、急に。」
「私のほうこそわがままばっかで。全部貴方にまかせっきりで。」

お父さんのことも、今回のことも。
私は流されているだけだった。

「頼ってっていったのにね、こんな事言っちゃって。」
「そんなことはない。確かにショックでないといったら嘘だが、嬉しかったさ。言いたい事を我慢せず言えるというのは大事なことだ。」

面と向かってそんなことを言われると、なんだか照れくさくなってしまう。
ブチャラティは人を褒めるのが上手だ。
少し離れた間に耐性がなくなっている。
昔は素直に胸をはれたのだが、あちらにはそんな気の利いた事言う人いなかったからなぁ。

「どうした、マキナ。」
「なななな、なんでもないよ!」
慣れるまで時間がかかりそうだ。