舞われまわれ | ナノ







「久しぶりだな、マキナ。」
「昇進おめでとう、ブチャラティ。」

車の着いた先はブチャラティの新居兼事務所。
一階はリストランテになっている。
テナントを貸しているそうだ。
感じのいい素敵なところである。
私たちは今そのリストランテの個室にいる。

ことの経緯を彼から聞いている間に紅茶はすっかり冷めてしまった。
つまりブチャラティは自分がチームを持つに当たり私を構成員の一人にすることをポルポさんへ申し出た、と。
そりゃあ、知らない人だけの寄せ集めよりは、知り合いがいたほうがやりやすいだろう。

「それに、お前も暗殺なんてことをしなくてすむしな。危険な連中だっただろう。無事でよかった。」
ひっかかっているのはそこだ。

「ブチャラティ、私。」
「どうした、マキナ。」
優しい笑顔を向けてくれる彼には、とても言いづらいことを今から言わなければならない。
でもここでいっておかないと私は何かあったとき後悔する。

「私ね、暗殺は確かに好んでない。けど、チームは好きだったし仕事自体にもやりがいはあったんだよ。心遣いは嬉しい。ありがとう、でも。」
せめて、一言伝えて欲しかった。
ブチャラティの元で働けるのは嬉しい。

けど諸手を振って喜べない。
私は皆とだって一緒にいたかった。
今回のことはあまりにも急すぎた。

「一言伝えて欲しかった。私の事を思ってしてくれたなら猶更。あなたはそうだと言うけど、そこに私の意思はなかったよ。」
「マキナ、俺はお前のことを思って!暗殺なんて、いつ死ぬか分からない任務なんだぞ。組織にだって良くは思われていない、危険な連中なんだ…!」

悲しそうに言うブチャラティ、その顔を見たら言葉が引っ込みかけた。
それでも、これは言っておかなくちゃあならない。
そうしなきゃ、私は後悔するだろう。
それはきっと、ブチャラティを悲しませたことへの後悔よりも重い。

「危険な連中?私も昨日まではその連中だったんだよ。彼らと私は何も変わらない。」
「俺はお前を心配してだな…、危険なこともあっただろう!」
「そうだよ。危険だらけ。でもね、そのいつ死ぬか分からない任務に当たる仲間を私は置いてきちゃったんだよ。そうすれば皆に割り振られる仕事量も増える。皆が死ぬかもしれない確立が増えるんだよ。」

そうして私は自分だけのうのうと安全な任務につくのだ。
「ごめんね、こんなこと言って。」
失望したかな。

「でも知っておいて欲しかったの。私は暗殺チームにいたことを後悔していないってことを。彼らのことが大好きだったことを。」
そりゃあ人道的な仕事じゃ無いけど、それはギャングそのものにも言える。
「だから、私は自分の過去に胸を張れるの。だからお願い。私の過去を否定しないで。彼らを否定しないで。」
今の私を、否定しないで。

「今回のことは決まっちゃったことだし、もう仕方がないし、それにブチャラティの気持ちは本当に嬉しいのよ。ありがとう。」
怒られるかな、詰られるかな。
「…マキナ。」
眉をひそめるブチャラティの顔は私に失望したのだろうか。
そんな顔をしないで欲しい。
思わず目を背けたくなるのを必死に堪えて私は彼を見据えた。