舞われまわれ | ナノ







「ここか、な?」
私は刑務所に来ていた。
異動先の幹部、ポルポさんは何がどうやらなのか。
事情はよくわからないけれど今はここで服役しているそうだ。
書類にはまずはここに来いとかいてあったので、その通りにやってきたのだが…。

「………。」

目の前にそびえるいかつい建物の雰囲気に思わず怖気づいてしまう。
いくらギャングの一員といったって国家権力はそれなりに怖い。
出来ることならこんな威圧的な施設のお世話になるのは避けたい。

入るのを戸惑っていると誰かが刑務所から出てきた。
私とそう変わらない風に見える少年だが、手にはライター。
私はなるべく目を合わせないようにその横を通り過ぎ、建物に入ることにした。
彼はもう煙草を吸ってるのか、それとももっと危ないものか。
なんにせよ刑務所から出てきたって事は何かしらやらかした子なのかな。
末恐ろしいことこの上ない。

「失礼します。」
「おや、来たねぇ。」
ガラス越しで巨体が起き上がる。
特注ピッツァを両手で丸ごとかじる姿を見て、まるで動物園のパンダみたいなんて一瞬思ったがすぐに考え直した。パンダはもっと可愛い。
それにパンダをこんな体のサイズに合わない部屋に押し込めたら愛護団体が黙っちゃいないだろう。

「ご無沙汰、しております。」
現実逃避はそれくらいにして、私は眼の前の人物に気圧されないよう足を踏ん張った。

「ブフゥ〜。書類のとおりだが、えーっと、そうだ。マキナといったね。君は異動だ。新しいチームが出来ることになってねぇ、そちらに入ってもらうよ。」
手のサイズとまったくあってない華奢なワイングラスを傾けながらポルポは続ける。

「まぁ暗殺よりは断然安全な仕事だよ。暗殺からのチーム異動なんて普通はないんだが、どうしてもと頼まれてねぇ。」
頼まれた?

「おや、意外そうだね。聞いてなかったのかい?フゥ〜。」

何の話か分からない。

「ブチャラティにだよ。」

「…は、初耳です。」
「リーダーは彼だよ。そういうわけだから、彼から直接話を聞くといい。家は、そうだ。最近引っ越したようでなぁ。こちらで手配するから乗っていくといい。」
「何から何までお心遣い、ありがとうございます。」
「彼は信頼に応えてくれたからねぇ。その妹分となれば私も信頼に応えねばならない、違うかい?君もこれからは私の信頼に応えてくれたまえ。」
「わかりました。失礼します。」

ボディチェックを済ませ外へ出ると既に黒塗りの車が用意されていた。
運転手に一言礼をいい、私は車に乗り込んだ。

まだ、頭が事態に追いついていなかった。