舞われまわれ | ナノ







「マキナ、床に座り込むな。椅子に座りなさい」
「えー、テレビこっちのほうが見やすいんだよ」
「椅子を見やすい位置にまで動かせばいいだろう」
「そっか」

よいしょ、とマキナは少し危ない足取りで椅子をテレビのほうに近づける。

「あまり近くに寄せすぎるなよ、目が悪くなる」
「はーい」

以前よりも謝る回数は減り、その分明るくなったマキナではあるが若干、いやかなり一般的な常識に欠けていることもありまだ学校には行かず家で諸々の勉強を頑張っている。
勉強面は口下手な父が頑張って教えてくれている。

しかし俺たちにとって当たり前のことを教えるというのは意外に難しくマキナはまだ食器や家具を使うのが苦手なようだ。
苦手と言うか、慣れないという方が近いのだろう。
食べるとき、座るとき、食器や家具を使うと言う選択肢を含むのを忘れてしまうようだ。
こればっかりは根気よく体に覚えさせるしかないだろう。

そのとき、廊下のほうから父が姿を現した。
「マキナ、脱いだ服は脱衣所に出しなさい」

父の背後の廊下には転々と彼女の服が散らかっている。
「あ、ごごご、ごめんなさい!」
一目散に廊下に向かってマキナは走っていく。

先は長そうだ。